李 誠鎬(産業技術総合研究所 マルチマテリアル研究部門)
生体活性ガラスは多様な無機イオンを導入することができ、その溶出挙動をガラス網目構造の制御によりコントロール可能である。リン酸塩ガラスは酸性度が高く多量・多種類の無機イオンを構造内に導入することが特徴である。しかし、ガラス形成能の高いメタ組成のリン酸塩ガラスは非常に溶解しやすく、溶解した際に酸性になることから、生体材料に応用する際には溶解挙動及び溶解時の材料周辺環境の制御が必要である。当研究グループは、短いリン酸塩ユニット(オルト/ピロリン酸)を主な構造とするインバート組成リン酸塩ガラスに中間酸化物を導入することで、適切な溶解挙動を有し、溶解時に中性を示す、生体用リン酸塩インバートガラスを中心に研究している。本発表では、リン酸塩インバートガラスの新たな作製プロセスとして、常温常圧でガラスを合成する液相法について紹介する。液相法により作製したガラスは、溶融急冷法では得られない新たな構造を作製することができた。新奇な組成や構造を持つ生体用リン酸塩ガラスを創出する基盤になることを期待している。
木村 勇太(東北大学 多元物質科学研究所)
「物質」と「材料」の本質的な違いは、デバイスや製品への実用可能性にあると言われています。つまり、「材料」は、デバイスや製品に使われてこそ「材料」であり、デバイス内で高い性能を発揮してこそ「高性能材料」と言えるかと思います。しかしながら、材料がデバイス中で発揮する性能は、その置かれた環境(温度や化学ポテンシャル、配置、異種材料との組み合わせなど)や性状(粒径や形状・形態など)に大きく依存し、必ずしもデバイス内でその材料本来の特性を最大限に発現できるとは限りません。そのため、デバイス内における材料の「真の性能」を理解するためには、デバイスの実作動環境下における材料の直接計測(オペランド計測)が不可欠です。さらに、複雑な構造を有するデバイス内部で、デバイス作動時に時々刻々と変化する特定の材料の状態・性能を明らかにするためには、最先端の計測手法と高度なデータ解析技術が要求されます。私は、特に蓄電池や燃料電池などの電気化学デバイスに焦点を当て、それらに用いられる材料の、デバイス作動下における「真の性能」を、先進的なオペランド計測・解析技術を駆使して明らかにしていくことを目指しています。
貞清 正彰(東京理科大学 理学部第一部応用化学科)
固体中で目的のイオンを自在に伝播させるための学問領域を固体イオニクスと呼びますが、学生の頃より、固体イオニクスに興味を惹かれ様々なイオン伝導体を創出する研究を行ってきました。本研究で着目したマグネシウムイオン伝導体の発展は、資源制約が無く将来的に理想的な蓄電デバイスの1つと考えられている「固体マグネシウムイオン二次電池」の実現に寄与するものである一方で、マグネシウムイオンは固体中での効率的な伝播が困難なイオン種であるとされています。自ら創出した材料が広く世の中に利用されることを夢見て、伝播困難なイオンを如何に伝播させるかについて日々アイデアを絞りながら研究に取り組んでいます。
藤林 将(宇部工業高等専門学校 物質工学科)
AIやIoTの発展に伴い膨大な情報を保存するための大容量不揮発性メモリの需要が高まっている一方、不揮発性メモリの情報記録密度は頭打ちの状況にあり、微細化面では限界を迎えつつあります。Googleのデータセンターを見ればわかるように、現在では広大な土地を利用することで実現しており、抜本的な解決のためには材料開発が必要となっています。このような背景の中、我々の開発した「単分子誘電体」は分子一つ一つが情報を記録することができ従来の材料に比べ情報記録密度の圧倒的向上が期待されています。我々は基礎研究から見出したこの材料を用いたデバイス開発に取り組んでおり、実用化を目指した初動研究を推進しています。
上田 浩平(大阪大学 大学院理学研究科物理学専攻)
近年、情報化社会の発展により人工知能やモノのインターネットなどの新しい技術が普及しています。それに伴い大容量データの高速処理が必要とされ、電子デバイスの低消費電力化・高速化が急務になっています。これを解決するための鍵となるのが、電子のスピン角運動量の流れであるスピン流を活用するスピントロニクスであり、この研究分野では情報不揮発性を担う磁気メモリの開発に貢献します。スピン流は、重金属における電流-スピン流変換により生成され、磁化を制御する機能を持つことから、磁気デバイスの基盤技術として注目されています。そのため、電流-スピン流変換効率の向上はスピントロニクスの最重要課題の一つとなっています。上述の背景を踏まえ、私は学生・研究員時代から金属スピントロニクス研究に従事してきました。助教になってからは新たに酸化物薄膜成長技術を習得し、酸化物を新たなスピントロニクスの舞台とする研究を推進しています。本研究では、エピタキシャル5d酸化物薄膜の構造・界面を活かした高効率電流-スピン流変換デバイスの実現に至りました。今後は、酸化物薄膜の電子構造の設計をより重視することで、電流-スピン流変換の制御指針を明らかにし、磁気デバイスにおける基盤技術の発展に貢献したいと思います。
<事務局より>
研究の発表は、通常、事実のみを客観的に説明するものですが、今回、各講師にお願いして、あえて、研究テーマの今後への熱い思いを書いて頂きました。レジュメ、講演に加えて、これらが本日ご参加の皆様と各講師との意見交換・交流のきっかけになればと願っています。
|