公益財団法人 日本板硝子材料工学助成会

平成14年度 助成研究の概要と推薦理由
表面ゾルゲル法を用いた電子供与体 −フラーレン修飾電極の形成とその表面光電変換特性
九州大学 大学院 工学研究院応用化学部門 助手  秋山 毅
現在、太陽電池としてシリコン半導体太陽電池が実用化され、色素増感半導体の実用化研究が活発に進められている。さらに、金属表面における金属−イオウ結合の生成を利用する自己集合法によってつくられるドナー(D)−アクセプター(A) 連結有機分子修飾電極が注目され、これを太陽電池に応用する研究が進められている。しかし、この D-A 連結分子修飾電極に使われるD-A連結分子の合成は容易でない。

これに対し、申請者はイオウ金属結合の形成に伴なう自己集合法と表面ゾルゲル法を用いてD-A 対修飾電極を形成することに成功した。すなわち、ITO 上にフラーレン誘導体(A)の自己集合単分子膜をつくり、その上にポルフィリン(D)ーチタン酸化物集合体を表面ゾル−ゲル法で形成して修飾電極をつくり、これが光電変換能を有することを見出した。

本研究の目的は、光電変換効率の向上を目指して高性能のD-A対修飾電極の設計を行なうことである。
このため、ドナー部位に用いる色素分子の多様化と表面ゾルゲル法によるドナー部位の多層化について検討する。 すなわち、
(1) ドナー部位に用いる色素分子数の増加による照射光の効率的な吸収
(2) 多層・多種のドナー部位間の電子移動・エネルギー移動
(3) 吸収波長の異なるドナー部位色素を多種用いることによる照射光の効率的な吸収による光電変換効率向上の効果を体系的に研究する。

この研究により、光電変換の高効率化と高性能化が可能になると期待される。


スピン−キャリア相互作用を利用する新規な透明素子材料ならびにその溶液化学的形成方法の開発
大阪市立工業研究所 研究主任  伊崎昌伸
ZnOは電気伝導性、圧電性を有し、湿度センサーや携帯機器用表面弾性波素子などに応用されており、また各種デバイスの透明電極やキャパシター層への応用が進められている。ZnOに磁性を導入して強磁性透明酸化亜鉛膜を形成することができれば、この材料を透明な高周波電磁波シールド材として、あるいは高速光回路をつくるのに応用することが可能になる。しかし、現在では、この種のZnOの強磁性の発現は10K以下に限られている。

本研究は室温で強磁性を示す透明酸化亜鉛半導体膜を形成し、その応用を開発することを目的としている。このような酸化亜鉛膜を合成するためには、膜中に鉄やマンガンなどの不純物を導入することが必要であるが、このためにはこれらの元素の均質導入が可能な溶液化学プロセスを使用しなければならない。

申請者らは、溶液化学法によるZnO膜の作成には極めて豊富な経験を有しているので、その経験に基づいて膜を作成する。まず、ZnO膜を水溶液からつくり、その後、鉄ならびにマンガンを含む水溶液に膜を不純物イオンを含む溶液に浸漬してドーピングを行なう。この方法では数十%以上の不純物の導入が可能であり、室温で強磁性を示すZnO膜ができるものと期待される。


シンクロトロン軌道放射光を用いた粉末回折法による微細結晶のサイズの評価
名古屋工業大学 セラミックス基礎工学研究センタ− 助教授  井田隆
無機材料の多くは微細な結晶が集合した多結晶体であり、その材料特性は結晶子のサイズに大きく依存している。また、ある種の色ガラスのように、アモルファス物質中に析出した微結晶が材料の光学的な性質を支配している場合もある。
材料中の結晶子の平均サイズの評価方法としてはScherrerの式を用いて粉末回折ピ−クの幅から求める方法が広く採用されている。しかし、回折ピ−クの形は結晶子の大きさによる広がりを表す関数と、測定装置の特性によるピ−クの広がりを表す幾つかの関数(装置関数)との何重もの畳み込みとなっている。従って、正確な平均結晶子サイズを求めるためには、装置関数のそれぞれの正しい数学的表現を求めておく必要がある。

このような事情を踏まえて、本研究者は既に実験室系の粉末X線回折計について、総ての光学部品に対する装置関数を、解析幾何学的考察により導出するとともに、実験的にそれ等の装置関数の妥当性を実証している。

本研究は上記研究を更に発展させ、シンクロトロン放射光をX線源とする粉末回折計に対する装置関数を決定すると同時に、当該回折計を用いて、ガラス表面に蒸着された金属微粒子の大きさ、形の異方性、結晶子の配向性などを明らかにしようというものである。
放射光を用いることにより、通常の実験室系X線源を用いた場合に比べて格段に精度の高い結果の得られることが期待され、この解析法の確立により、各種セラミックス材料の結晶子サイズについて正確な知見を得ることが可能となる。


新規超伝導体を目指した金属ホウ化物・窒化物のエピタキシーによる電子構造制御
広島大学 大学院 工学研究科物質化学システム専攻 助教授  犬丸啓
本申請者はこれまでSiやMgO単結晶基板上にバッファー層ありあるいはなしの条件で、金属窒化物の層をエピタキシャル成長することに成功している。この技術を基礎に、窒化物の層間にMgBr2やC60などをサンドイッチして人工格子をつくり、新規超伝導物質を得ようと言うのが目的である。

人工格子作成技術には優れたものが認められ、成果を期待したい。
ここに挙げられている超伝導体では電子構造はある程度明らかになっているので、層状化することによりどのような物性変化が期待されるかも少し説明が欲しかった。


広帯域・波長無依存型波長変換素子
東京工業大学 精密工学研究所 助教授  植之原裕行
インターネットの成長に伴う通信系トラフィックの急増に対応するため、光通信ネットワークの超高速・大容量化が急務であり、さしあたって40Gbpsの高速に対応できる技術の実現が求められている。
従来は入力信号光をフォトディテクタなどで光/電気(O/E)変換し、電気信号レベルで識別再生を行った後に光変調器を駆動して半導体レーザーの出力光を強度変調し、電気/光(E/O)変換を行っている。しかし出力用の半導体レーザーの波長を入力信号と異なるものに設定しておけば、波長変換動作となる。従って、信号光を光レベルで波長変換を40Gbps以上の高速で行う波長変換素子が実現されれば、O/E・E/O変換は行わずに識別再生できることになる。特に波長多重(WDM)ネットワークでは広い帯域の波長を扱うため、波長依存性の小さい特性の実現が重要である。

本研究の目的は、入力信号光の波長範囲が広く、同時に波長無依存の波長変換素子の実現である。
40Gbpsの速度においても波長変換が可能な技術としては、高速成・素子作製の容易さ・高効率の観点から半導体光増幅器(SOA)の相互利得変調(XGM)特性を利用する。SOAの活性層として井戸層組成・井戸幅が異なる多重量子井戸(MQW)構造とすると、利得ピーク波長の異なる利得スペクトルを組合わせることになる。ある井戸幅のMQW構造の光学利得は、注入されたキャリア密度が大きくなるに従って
(1)ピーク値の増大
(2)ピーク波長の短波長化
を示す。
そのため波長を固定して利得のキャリア密度依存性をみると、長波長では小さいキャリア密度で利得が発生する代わりに利得値はあまり大きくならず、短波長では大きなキャリア密度で利得が発生する代わりに利得値が大きい。そこで、増幅対象の波長範囲で微分利得がなるべく平坦になるように、異なる井戸組成のMQW構造で発生する利得がλ1、λ2、λ3の3波長でほぼ等しくなるように選択すれば広帯域波長無依存型波長変換素子が実現する。

本素子は画期的な光通信システムへのキーテクノロジーであり、早期の開発が要望される。


貴金属カルコハライドガラスの伝導特性とネットワーク構造
山形大学 理学部 助教授  臼杵毅
結晶とガラス状態の同一組成物で、イオン伝導が桁違いに大きいガラスがあり、高イオン伝導性ガラスと言われている。0gまたはLiイオン含有ガラス等が報告されている。電池材料への応用が期待されて、新規組成ガラス開発に注目されてきていた。

本研究は、高イオン伝導性ガラスの構造とイオン伝導メカニズムに関する研究を行い、何故高イオン伝導性になるかを説明することを目的としている。
まず、0g(Cu)I系ハライド+カルコゲナイド系ガラス組成において、これらの系の割合を変えた組成物を溶融法、メカニカルアロイング法により貴金属カルコハライドガラスを作成して熱物性、イオン伝導、電子伝導を測定する。高エ研の放射光施設、中性子散乱施設にある装置によりEX0FS、パルス中性子回折実験により構造、また、中距離ネットワーク構造の定量解析を行なう等構造に関する知見を得る。0gやCuイオン周囲の配位構造や組成依存性に関する情報、また、測定温度を変化させて、可動イオンの周囲の構造変化に関するデータを得る。
これらの測定結果を従来報告されているガラスの高イオン伝導機構と比較検討して、何故高イオン伝導になるかを検証する。

本研究では、高イオン伝導性ガラスの構造とイオン伝導メカニズムの明確な解釈と実用ガラス組成の開発指針が提示されることが期待される。


中性子ラジオグラフィーによる高温型プロトン伝導体の水素吸蔵/拡散機構の解析
鳥取大学 工学部物質工学科 教授  江坂享男
水素はプロトン伝導体や水素吸蔵合金などにおいて重要な役割を演ずるので、これらの物質について水素吸蔵量や拡散に関する情報は欠かせない。

1Hと2Dとで中性子に対する核反応性が異なり、2Dは中性子との反応性に乏しいが、1Hは中性子を吸収してγ線を放出する。水素同位体のこの違いを利用して同位体拡散による濃度分布を求め、水素吸蔵量と同位体拡散係数を決定し、拡散機構を解明しようというのが本研究の目指すところである。
結果に期待する。


完全配列化量子ドット結晶を用いた光非線形材料
筑波大学 物理工学系 講師  岡田至崇
量子ドットに関する研究で、非線形性の光学材料への展開を目指す。これまで、InGaAsのドットの大きさを揃え、かつ配列も制御した形成法を実現してきた。
本研究では、さらに多層化して光に対する非線形性発現を目指す。
(311)B基板上へのドット形成が特徴である。


物性的相境界における巨大誘電・圧電効果発現を狙った新規鉛フリー固溶体セラミックスの開発
名古屋工業大学 工学部材料工学科 助手  柿本健一
IT技術の発展とともに精密電子デバイスの小型化、高周波帯域化などの高性能化が望まれ、それに伴い圧電材料も表面弾性波フィルター、第二高調波光学変換素子、マイクロマシンなどの広い応用分野での需要が拡大している。一方、現在実用化されている圧電材料は鉛成分をベースにしたPZT系(Pb[ZrO3,TiO3])がすぐれているため環境問題から鉛フリーの圧電材料の開発が望まれている。

そこでPZTに匹敵する、優れた性能を持つ鉛フリーの圧電材料を探索し、合成を目指す。そして合成した材料をX線回折により、またラマン分光法を補助手段として構造解析をする。材料探索の指針として、PZT発見時に見られた組成的相境界の発現に倣った固溶体合成にこだわるのではなく、強誘電体と反強誘電体、磁性体の全く異なる性質を持つ材料群を組み合わせて、物理的相境界と名づける境界の発現を狙う。
すなわち異なる物性の材料が共存する系が新規圧電性材料の合成の重要な因子になることを期している。そして物理的相境界の発現を確認するとともに、鉛フリーの巨大誘電・圧電性の発現を狙った材料の探索的研究を行うとしている。

ユニークな組み合わせの材料選択の際に鉛フリーに限らず、将来問題になるであろうビスマスも用いない強誘電性材料の探索も心がけてほしい。
また物理的相境界に着目したことは評価するが、これによる特異な現象が明確に示されることを期待する。


希土類酸化物ナノチューブの合成と光学特性に関する研究
宮崎大学 工学部物質環境化学科 教授  工学博士 木島剛
従来、カーボンを始め、BN,WS2やV2O5,SiO2,ZrO2,TiO2などの酸化物系ナノチューブがつくられている。
これに対し、申請者らは、多数の酸化物メソ多孔体を合成している。とくに最近になって、4種のランタナイド元素、すなわち、Er,Tm,Yb,Luの酸化物を骨格とする外径約6nm,内径約3nmの単層型ナノチューブの合成に成功している。希土類系のナノチューブには、希土類特有の4f電子構造とナノ構造特有の量子サイズ効果に起因する顕著な発光特性や永続的ホールバーニング効果などフォトニクスに基づく情報分野への応用、あるいは高い触媒効果に基く環境分野への応用が期待される。

本研究の目的は、希土類系ナノチューブの生成機構を検討し、その知見に基づいて希土類酸化物ナノチューブを形成する希土類元素の範囲を広げ、また、元素ドープ型希土類酸化物ナノチューブを合成して新しい光学材料を開発することである。
希土類酸化物ナノチューブは鋳型分子を用いる均一沈殿反応によってつくられるが、この際、層状→六方構造→ナノチューブの順に変化する。この構造変化にたいする鋳型分子の組成、鎖長およびその他の合成条件の影響を調べることによってナノチューブ生成の機構を明らかにし、その知見に基づいて、上記4種以外の希土類の酸化物ナノチューブを創製し、また、各種の元素をドープした希土類ナノチューブを合成し、その特性を検討しようとするものである。


ナノメートルガラスの変形と原子直接観察による力学的特性解析
筑波大学 物質工学系 助教授  木塚徳志
本研究はナノメートルオーダーに微細化したガラスを接触変形させその構造を原子直接観察による調べ、特に力学的特性解析しようとするものである。

申請者は今までシリコン結晶や金属材料についてその場観察を試料とカンチレバーの接触部分原子レベルの電顕観察をしてきたが、本研究ではシリコンを酸化したシリカガラスなどのナノガラスを試料とする。
ピエゾ駆動により数nmの酸化膜を持つ試料とカンチレバーを接触境界を変形させ、同時にその接触から変形までの一連の過程を原子オーダーで観察する。また、同時に、電子状態、電圧―電流特性、電気伝導性などを原子配列の変化などとの関連を調べる。接触部は超高圧なので、これらに関連する物性をも探索する。
そして、接合界面やネットワークの新規な特徴を探し、その特性を応用した電子デバイスを開発する。
これまで主に結晶性材料について観察してきたが、非晶質材料の変形を調べ、原子運動をその場観察して新規な特徴を探索しようとするものである。

解析、分析に止まらず、申請者の結晶材料についての研究実績を踏まえ、シリカガラスのマクロな機械的特性との相関的解釈を含めてその成果が期待される


気相光グラフト重合シリケートによる有機高分子表面の生体活性機能化
京都大学 大学院 工学研究科材料化学専攻 助教授  金鉉敏
アパタイトの新生組織の生成を誘導するには、Si-OH基やTi-OH基のような官能基により誘起されることが明らかになっている。高分子表面にこれらの官能基が導入できれば新規な再生医用材料が開発されるものと思われる。

本研究はナノスケールの三次元構造の高分子表面の生体活性機能化するために、生体シリケートを形成して、アパタイトを形成する方法を提案する。すなわち、有機シラン系液相物質をアパタイトの核形成に有効なSi-OH其を有する生体活性シリケートとして有機高分子表面に光グラフト重合する機構を解明して、有機高分子マトリックス表面に生体活性セラミックス相を形成させるものである。低密度ポリエチレンを基板としてシリケートのプリカーサを紫外線での気相光グラフト重合シリケートによる有機高分子表面に形成する。さらに得られた基板を擬似体液中に種々の時間浸漬して形成アパタイトの状態を調べる。

本研究は、有機シラン系液相物質をアパタイトの核形成に有効なSi-OH其を有する生体活性シリケートとして有機高分子表面に光グラフト重合する機構を解明して、ナノスケールの三次元構造の高分子表面に生体活性セラミックス相を形成させるものである。得られる生体活性ハイブリッド材料の各種特性評価が重要であるが、これらの研究独自性と申請者らの過去の研究成果を考慮して、推薦する。


ZnMgCdS系混晶の分子線エピタキシーによる創製と紫外線A領域直測センサーの開発
早稲田大学 各務記念材料技術研究所 教授  小林正和
紫外線センサーに関する研究で、II-VI属のZnMgCdSを分子線エピタキシーにより形成し、光導電型のセンサーを製作するというデバイスの研究である。
アメリカパーデュー大学('88〜'91在籍)と千葉大学('92〜'00在籍)におけるこの分野の研究では実績もあり、実現の可能性は高い。GaN系より短波長域をねらう。


光機能性ナノ結晶化ガラス及び結晶ドットのナノインデンテーション解析
長岡技術科学大学 工学部化学系 教授  小松高行
本研究は申請者らが独自に開発してきた光機能性ナノ結晶化ガラス及び結晶ドットの機械的性質をナノインデンテーション解析により研究するものである。

申請者らの報告したTeO2系やBi2O3系の新規な結晶化ガラスは機械的に極めて脆い欠点があり、SiO2系のものとは異なる。そこで、透明ナノ結晶化ガラス及びYAGレーザ照射によって形成した結晶ドットやラインの弾性・機械的特性をナノインデンテーションにより解析することを目的とする。
原料を高温溶融法、急冷法で作製する。次に加熱処理により結晶化させ、各種結晶化ガラスを作製する。
また一部のガラスについては、YAGレーザ照射により種々の粒径の結晶ドットを析出させる。ナノインデンテーション装置により、母体ガラス、結晶化ガラス、結晶ドット、結晶ラインについてナノインデンテーション解析を行い各種の機械的特性を評価する。圧痕の熱処理前後の変化を原子間力顕微鏡で調べる。予備実験では、これら試料の圧子の貫入深さと荷重の関係では、大きな差が得られている。

本研究は、申請者らが開発した新規の光機能性ナノ結晶化ガラス及び結晶ドットについて、実用上重要な機械的特性をナノインデンテーション解析により明らかにしようとするものであり、とくに均一に形成した結晶ドットの試料について、ナノコンポジットの機械的特性の解釈からも、その成果が期待される。


水溶液から生成する斜方晶ニオブ酸カリウムの成長メカニズム
山口大学 工学部機能材料工学科 助教授  小松隆一
移動体通信用の重要なデバイス中の表面弾性波素子としてニオブ酸リチウムが使用されている。
これに対し、斜方晶ニオブ酸カリウムは、ニオブ酸リチウムの10倍にあたる53%の電気機械結合係数を有しているので、最近になって、斜方晶ニオブ酸カリウムが次世代移動体通信の広帯域中間表面弾性波フィルターとして注目されている。しかし、この結晶は高温融液からの結晶成長で育成されるため、冷却過程で多分域の材料となり、圧電用の大口径単分域結晶は得られない。また、この多分域化を避けるために水溶液から斜方晶ニオブ酸カリウムを生成する方法が開発されているが、この方法では生成する結晶は100μm程度であり、実用上必要なmmサイズの結晶はまだ得られていない。

本研究の目的は、水溶液から低温相の単分域斜方晶ニオブ酸カリウム結晶を種々の条件で成長させて成長の機構を明らかにし、実用に供することができる大きさの結晶を育成することである。
まず、原料(K2NbO3F)とニオブ酸カリウム(KNbO3)の飽和溶解度を溶液のpHの関数として正確に測定し、斜方晶ニオブ酸カリウムについて走査電子顕微鏡を用いて成長速度を測定し、成長の素過程についての情報に基づいて最適条件を検討し、より大きい結晶が生成する条件を検討する。

本研究により結晶生成の機構が明らかになり、大型単分域斜方晶ニオブ酸カリウムの生成が可能になれば、優れた表面弾性波素子および環境に優しい非鉛系バルク波圧電素子が得られることになり、大きい波及効果が期待できる。


Mn−La希薄ドープによる透明な室温強磁性・強誘電性酸化物の成と物性
北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助教授  五味学
室温以上で強磁性体であって強誘電性の共存が期待できるペロブスカイト型酸化物系の希薄強磁性体を発見している。それはペロブスカイト型酸化物0MO3(0=Sr,Ba,Ca,Pb,M=Ti,Zr)の0サイト、BサイトにそれぞれLa,Mnを同量ドープした01−xLaxM1−xMnxO3で、ドープ量は数パーセント以上と少量である。このようにMnイオンが希薄であるにもかかわらず高い強磁性キュリー温度を示すが、その強磁性の発現機構を明らかにするとともに、強誘電性および圧電性と強磁性との相関および共存条件を調べ、電圧による磁性制御の条件をはっきりさせたいとしている。その結果電界によって磁性、磁界によって誘電性を制御できる可能性があり、磁化反転などを電圧で制御できることになる。

すなわちMn,Laの置換量を変えて磁気モーメント、キュリー温度の変化の測定や強誘電性、結晶格子の歪みなどから強誘電性と強磁性の共存条件を明らかにする、またMnの置換量を一定にしてLaの量を変化させたMnの価数の強磁性発現への役割を調べる。そして格子歪みが磁性にどのように影響するかを明らかにするためにTc前後での磁気特性の挙動をSQUIDで観測する。

強誘電性への磁性の役割りなど今後の発展が楽しみであるが、μSRによるスピンの緩和時間の電圧依存性の測定などから得られる動的な挙動も、強誘電性と強磁性の共存条件の解明にとって有用な知見となるであろう。


放射光X線回折デ−タのイメ−ジングによる軌道整列の直接観察
名古屋大学 大学院 工学研究科 教授  坂田誠
無機固体材料には超伝導、巨大磁気抵抗効果など、電子の関与する物性が利用されているもの、或いは利用されようとしているものが多い。このような材料の研究においては構造に関する情報として、単に原子配列を知るのみでは不十分で、電子状態と直接関係をもつ電子密度分布レベルの構造をも明らかにすることが重要である。結晶中の電子の空間分布を求める実験手法としてはX線回折法があるが、従来、測定精度を実用的なレベルに迄高めることが困難であったため、一部の研究者により試みられるに留まっていた。
ところが近年、大型放射光施設SPring-8のような第3世代高輝度光源が出現し、測定精度の著しい向上がみられるに至った。加えて、本研究者によりマキシマムエントロピ−法を組み入れた回折デ−タの解析法が開発され、得られる電子密度分布の信頼度が著しく高められた。

本研究は高輝度光源SPring-8からの高エネルギ−X線を利用し、巨大磁気抵抗効果を示す先端材料の一つとして注目されているマンガン酸化物中の電子密度分布を、マキシマムエントロピ−法を組み込んだリ−トベルト法により求め、軌道整列状態を直接観察することを目的としている。

これにより磁場による電子状態の変化に関する情報が得られ、巨大磁気抵抗効果に対する理解が深まると同時に、新しい磁気抵抗材料の探索に向け、その指針の得られることが期待される。


モノリシック型マイクロチャネルプレート
埼玉大学 工学部 電気電子システム工学科 教授  高橋幸郎
2次電子増倍素子のマイクロチャネルプレート(MCP)の唯一の実用的な製法は、数十万本以上のガラス毛細管を融着結束した後、切断研磨し、その成分である高鉛ガラスの水素還元法によるチャネル内壁面の導電化を行って製作されている。このためMCPの製造コストは高く、また大面積化が困難である。

本研究の目的は一枚の基板に一括して電子増倍用マイクロチャネルと2次電子増倍膜を形成したモノリシック型の高利得MCP製作法の開発である。

具体的には、
(1)厚さ数百μmの感光性ガラス基板に、ケミカルエッチングの技術により、直径数十μmの高アスペクト比(孔の長さ/孔径)のマイクロチャネルを形成し、その内壁にダイヤモンドライクカーボン膜をプラズマCVD(化学的気相成長法)により形成する方法
(2)高鉛ガラスをICP(誘導結合型プラズマエッチング)を用いて高アスペクト比エッチングを行い、マイクロチャネルを形成し、水素還元により2次電子増倍膜を得るものである。

これらの方法では、一括して大量かつ大面積のMCPを作製でき、低価格化が期待される。


サイアロンナノ多孔体の創製
横浜国立大学 大学院 環境情報研究院 助手  多々見純一
ナノテクノロジー・材料においては、構成結晶等の超微細化とともに、径及び形状を選び或る量の気孔を含ませたナノ多孔体が注目されている。

本研究者は、SiO2-Al2O3-CaO系の混合物を還元窒化してα-サイアロンを主体とする中空球状の超微粉体を合成し、その解砕物を緻密に焼結する技法を開発している。
本研究ではそれを発展させるために、この種の中空球状サイアロンを大量に合成することを目指し、更に該球体を破砕せずに活用し、各種の気孔径、気孔率を持つナノ焼結多孔体を放電プラズマ焼結装置を用いて作成することを目標としている。

その結果によって、耐熱性の高い高温フィルターや損傷許容性の大きな高強度セラミックス構造材の開発が促進されるものと期待できよう。


酸化および還元サイトが分離可能な光触媒の開発
東京大学 生産技術研究所助 教授  立間徹
酸化チタン触媒の表面の一部に貴金属を付け、電解質水溶液に接触させて光を照射すると、生成した電子は貴金属に移動してカソード反応を起こし、ホールは酸化チタンの表面においてアノード反応を起こす。
この反応は広く知られているが、還元サイトと酸化サイトが近過ぎると、電子とホールの再結合や還元生成物と酸化生成物との反応によって、逆戻りの反応が起こり、求める反応の効率が低下する。

本研究は、
1)リソグラフィー法やマスキング法などを利用して還元サイトとしての貴金属を酸化チタン表面に付与したあと、ヘテロポリ酸などの無機固体電解質を被覆する
2)多孔質の酸化チタン膜の片面に貴金属を付け、全体を多孔質の固体電解質膜で被覆するなどの方法により酸化サイトと還元サイトの分離を行おうというものである。

効率的な光触媒開発の一方法として期待される。


自己燃焼を利用した多元系セラミックス微粒子の高速合成法の開発
東京工業大学 大学院 理工学研究科 助教授  谷口泉
ナノテクノロジーでは、品質の高い超微粒子が効率よく、しかも十分低いコストで工業規模で合成できるかどうかが1つの基本条件となろう。

本研究者は、複数の原料塩水溶液を超音波噴霧熱分解装置に導入して、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物微粒子等の合成に成果を収め、精密な制御の可能な化学工学的装置を整備している。
今回の研究は、以前得られた微粒子内の組成の均一度を更に増し、アモルファスなど結晶度の低い分体の混入を防ぐことを目的として進められ、その効果はリチウムイオン二次電池を作成して確かめられる。

成果は期待され、電池のみならず、各種の先進セラミックス材料の今後の発展に大きく役立つものと考えられる。


超単分散金・銀ナノ粒子多次元超格子の非線形光学特性
北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助教授  寺西利治
量子サイズ効果を有する粒径の揃った金属ナノ粒子が整然と配列した超格子は、ナノ粒子単独では発現しない新規な物性を示す。

本研究は超微細金および銀ナノ粒子の熱処理により、粒径2〜15nmの範囲で金および銀ナノ粒子の大きさを精密に制御するとともに、自己組織化あるいはLB法により種々の基板上に、二次元ならびに三次元超格子を創製し、その非線形光学特性を解明することを目的としている。

まず、金および銀と親和性の高いメルカプト基を一端に、酸性基あるいは塩基性基を他端に有し、両官能基間のメチレン鎖数(2〜18)の異なる配位子を合成する。次にアルカンチオールあるいは合成配位子存在下、相間移動触媒により水相からトルエン相に移動した金あるいは銀イオンのNaBH4還元により、有機配位子に保護された超微細金および銀ナノ粒子を合成する。
固体として取り出したナノ粒子/相間移動触媒混合物をマッフル炉にて100〜250℃で熱処理することにより2〜15nmの超単分散金および銀ナノ粒子を得る。これらのナノ粒子をクロロホルムに再溶解し、水サブフェース上に展開・溶媒乾燥し、ナノ粒子単層膜を作製し、疎水性ガラス基板上に転写することにより、数cm2におよぶナノ粒子二次元超格子膜を形成、さらにこの操作を繰り返し二次元超格子を積層させることにより、金・銀ナノ粒子三次元超格子を創製する。

大きな非線形光学効果とフォトニック結晶への展開が期待される。


リチウムイオン伝導性固体電解質の開発と薄膜生成
静岡大学 工学部物質工学科 助手  冨田靖正
本申請者は優れたリチウムイオン伝導性固体電解質Li3InBr6を発見している。
そのイオン伝導性を更に高めるため、Liの一部をSr、Baで置換すること、及び耐熱性の向上を目的としてBrの一部を酸素、フッ素で置換することを計画している。またこの電解質を用いて4V級Li電池の開発を目指しており、真空蒸着法によりLi3InBr6の製膜を本格的に開始すると述べている。また電解質の電気化学安定性は電池作成上重要な項目であるが、その研究も計画されている。

総体的に実験計画は緻密であり、よい研究と感じ選定した。


超平坦歪み緩和4族半導体基板の形成
山梨大学 工学部 無機合成研究施設 教授  中川清和
Si-LSIの高集積化と高速化を目指し素子の微細化が進むにつれて、短チャンネル効果が顕在化し、チャネル直下に不純物を高濃度に添加する等の対策が取られているが、そのため不純物散乱強度が増加することなどにより移動度が大幅に低下するなどの問題が生じており、将来のLSIを構築するには新たな素子構造や材料の検討が必要となる。

本研究の対象であるSi基板/SiGeバッファー層/Siチャネル層からなるヘテロ構造は、Si-LSIにバンドエンジニアリングの概念を導入するもので、まず、
(1)イオン注入法を用いて、Si基板に積極的に制御して格子間Siや空格子点を導入し、これらを転位源として用いることにより、この上に成長したSiGeにミスフィット転位を制御して導入し、膜厚500nm程度で十分な歪み緩和SiGe層を形成する。
(2)上記方法で形成したSi基板/SiGeバッファー層に化学機械研磨技術を応用し、歪み緩和SiGe層の表面平坦度を1nm以下とし、歪みSiチャネル形成用擬似基板作成を目指すものである。

その成果により、高移動度を有する素子形成を可能とする半導体基板が期待される。


ポストチューニングした長周期ファイバーグレーティングを用いた光通信用利得等価器に関する研究
大阪工業大学 工学部電子工学科 助教授  西壽巳
波長多重光ファイバー通信用のコンポーネントに関するもの。
超広帯域光ファイバー通信には光増幅器が使われるが、その増幅度が波長域に対して一様でなく、等価が必要である。そのための一つとして、ファイバーグレーティングが周期的波長選択特性を持つ等価器として使われる。

しかし、波長選択特性の微調整にはファイバーそのものの加工が不可欠という問題点があった.本研究では、ファイバーグレーティングの外部にコーティングすることによりこれを実行しようとするもので、工程の簡単化が期待できる.実際に即した研究で、実現の可能性は高い。


高温超伝導体における磁束ピニングサイトの直接同定
東京工業大学 応用セラミックス研究所 助教授  長谷川哲也
セラミックス系超伝導材料を線材として実用化するには、数テスラの磁場下で1060/cm2程度の臨界電流密度を達成することが重要になる。というのは超伝導材料に磁場が加わると磁束量子を形成して磁束が浸入し、電流が流れるとローレンツ力により磁束が運動をしてエネルギー損失となり、電気抵抗を生じてしまう。
このような磁束の動きを制限するためには超伝導性が弱いピニングセンターを作る必要があり、そのために双晶面などの微細組織の導入が試みられている。ピニングセンターとしてPb−Bi系、Nd系などの材料が知られているが、これらは推測されているピニングの原因が異なっている。

そこで磁束量子と構造との関係を調べることが肝要になってくる。それには磁束量子と微細構造を関連づけてマッピングすることが効果的で、ナノスケールでは走査トンネル顕微鏡(STM)を、ミクロンスケールでは走査型SQUID顕微鏡を用いる。さらに液体ヘリウム温度から室温までの温度範囲で走査トンネル分光法(STS)による電子状態の空間変化を測定し、微細構造に対応した超伝導転移温度Tcの違いと、超伝導ギャップがどの程度場所に依存するかを調べる。またTcよりすぐ上で擬ギャップの構造変化も観測する。

これらの測定結果の詳細な検討からピニングセンターを効果的に作る材料設計の指針となる知見が得られるが、それに基づいてピニングセンターとなる新材料の探索ができることを期待する。


希土類蛍光プローブ法によるガラス中に分散された金属微粒子界面電子状態の研究
名古屋工業大学 材料工学科 助手  早川知克
透明なマトリックスガラス中に金属微粒子を含む系に光が入射すると、金属微粒子内で表面プラズモンと呼ばれる電子の集団励起がおこり、大きい3次非線形光学効果が見られる。そのため、このような系は超高速スイッチング用の材料としての応用が考えられている。一方、マトリックス中に金属微粒子とともに希土類イオンが存在すると、表面プラズマ振動によって微粒子の近傍に誘起された強い局所電場を希土類イオンが感じてその光学特性が変化することが期待される。
実際、申請者は銀微粒子−Eu3+系について分光学的研究を行ない、銀微粒子の存在によってEu3+の励起確率が高くなることを発見している。

本研究は、金微粒子に誘起される表面プラズモンによる局所電場の効果を希土類イオンをプローブとして研究するとともに相互作用の本性を明かにしようとするものである。そのため、大きさや形状を精密に制御した金微粒子を含む試料を作製して系の三次非線形光学感受率と希土類イオンの発光特性の関連を究明する。

本研究により、金微粒子中の表面プラズモンによる局所電場の性質および効果の理論的意味が明らかになることが期待される。また、ガラス中の希土類イオン(Eu3+イオン)の蛍光効率が格段と高められ、光の高効率増幅が可能になるなど工学上も大きい意義があり、研究の発展が期待される。


球状ナノポーラスシリカの合成と均一制御
東海大学 工学部応用化学科 講師  樋口昌史
本研究は球状ナノポーラスシリカを合成して球形および細孔が均一な条件を見出し、これらを制御する方法を確立することを目的としている。従来報告されている方法はメソポーラスシリカの粒径の粒度分布が広いので、非常に均一な粒子をメソ径の大きさや間隔を制御して大量に合成することは困難である。

本研究では、テトラエチルシリケートをアンモニア触媒で加水分解してシリカ球をゾル−ゲル法で合成する。このメソポーラスシリカの合成時に有機テンプレートとしてドデシルアミン(DD0)を使用して、アンモニア触媒で、エチルシリケートの加水分解等の反応を進行させ、均一球状で均一メソポアの合成条件を明らかにする。DD0は強い塩基性を示すので有機テンプレートの作用と同時にアンモニアと同様な塩基性の作用をするものと思われる。得られた試料を遠心分離して得られた沈殿物を超音波洗浄器で洗浄して乾燥する。高温加熱処理して有機テンプレートを除去する。走査電顕、ガス吸着法等で球状、細孔構造をしらべる。これらのプロセスにおいて、原料混合比、原料の種類を変化させ、プロセス中間状態のデータをも考慮して、目的のメソポーラスシリカを得る条件を探索する。

本研究は、粒径が非常に均一なメソポーラスシリカ粒子をメソ径の大きさや間隔を制御して大量に合成するために、有機テンプレートとしては強い塩基性を示すドデシルアミン(DD0)を合成時に使用して、アンモニア触媒でエチルシリケートの加水分解等の反応を進行させる。均一球状で均一メソポアの合成条件を明らかにすることの成果が期待される。


Biドープシリカガラスのエネルギー準位に関する研究
大阪大学 レーザー核融合研究センター 助手  藤本靖
光通信において重要な光ファイバー増幅器としてEr3+ドープシリカガラスが1.55μm帯の増幅に使用されている。しかし、1.3μm帯については適当な増幅媒体はまだ見つかっていない状況である。
これにたいして、本研究者は、Biをドープしたシリカガラスが可視領域の励起によって赤外領域に非常に広い波長幅の蛍光特性を示すことを発見し、これが光増幅器に応用できるのではないかと考えている。

本研究はBiドープシリカガラスの蛍光メカニズムを解明するとともにBiのエネルギー準位を詳細に調べ、また蛍光にたいするBiの周囲の元素の構造を明らかにすることを目的とする。現在までに本研究者によってBiドープシリカガラスは0.8μmの光による励起によって1.25μmにピークを持つ広帯域の発光を示すことが明らかにされている。また、蛍光寿命は1msのオーダーであり、長寿命であることが知られている。

本研究により、蛍光の機構が明らかになり、高効率蛍光媒質が得られれば、Biドープシリカガラスを0.8μm帯励起による1.3μm帯の光ファイバー増幅器に応用でき、増幅の帯域幅が広い波長多重通信システムが可能になると期待される。


無機脆性材料に対する簡便残留応力測定法とそれに基づいた強度評価法の構築
京都大学 大学院 エネルギー科学研究科 助教授  星出敏彦
セラミックスに潜在する各種欠陥の強度への影響は、今後も基本的に重要な問題であるが、これを実験と理論の両面から長年研究し強度評価法を構築してきた本研究者は、最近、加工過程で入り易い残留応力も無視しえないことを強調し、予備的な実験や解析を続けている。

残留応力の測定にはX線応力測定法が知られているが、現場で簡単にできるビッカース硬さ試験機を改造しそれを使った簡便法を案出し、チッ化珪素やアルミナを対象にして実験を進めている。
この研究が進展し、残留応力の影響をも含む一貫した強度評価法が構築されれば、セラミックスの実用化に際して、設計上有用な指針が与えられる筈で成果が期待される。


放電観測による二つの無機材料表面間のすべり摩擦で発生する表面帯電の研究
学習院大学 理学部 助手  三浦崇
固体表面間の摩擦現象は古くて新しい研究課題であり、摩擦に伴う電子の移動と関係する摩擦電気の発生機構はあまりわかっていない。これと深く関係する大気中でのダイアモンド球と各種セラミックス表面間での摩擦発光の観測に成功した。
そして低加重、低速での摩擦に伴う発光の分光、2次元分布の測定から、発光には摩擦熱による可視から近赤外光の発光と大気の放電に基づく紫外光の発光があることを明らかにし、さらに誘電体間で生じる帯電による電位差は200V程度であると推定できた。

摩擦発光の部分を真空中に設置して、先端が球面のダイアモンドピンと光に透明な単結晶サファイア、単結晶水晶、ガラスなどの平板を用い、平板を回転させながら平板を透過する発光の2次元パターンを光学フィルター、光学顕微鏡を通してCCDカメラで観測する装置を製作する。そしてピンへの負荷、回転速度、雰囲気ガスなどを変えた測定から摩擦帯電の電位差や電荷密度の知見を得ようとしている。

非常にユニークな測定であり、今後の成果に期待しているが、この測定装置ではピンとしては光学的に透明な材料である必要はないので、もっと幅広い材料間での摩擦の測定をし、摩擦電気の発生機構の解明へと発展することを期待する。


スピン機能性フォトニックナノガラス
東北大学 多元物質科学研究所 助教授  村山明宏
磁性ガラスに関する研究で、磁性元素を添加したいわゆる磁性半導体をガラスの微細構造中に取り込んで形成する新しい材料に関する研究であり、カー効果、ファラデー回転能、スピン波ブリルアン散乱などの特性評価を行う。

磁性複合ガラス材料への形成がまずは中心となる。これまでの実績から新しい材料に実現が期待される。


デラフォサイト型酸化物CuInO2の熱電材料としての応用
高知工業高等専門学校 助教授  安川雅啓
デラフォサイト型構造をとるCuMO2(M=Al,Ga,In)はO-Cu-Oのダンベル型CuO2層と稜共有により連結したM3+O6八面体層が交互に繰り返された特殊な構造をもち、バンドギャップ3〜4eVの絶縁体であるが、M3+イオンを2価あるいは4価の金属イオンで部分的に置換することにより、ワイドギャップのp型あるいはn型酸化物半導体とすることができる。
事実、本研究者等は最近CuInO2のIn3+の一部をCa2+およびSn4+で置換することにより、同一酸化物を母体とした初のp/n伝導性制御に成功している。

本研究はCuInO2を母体としたp型およびn型焼結体を作製し、ド−プ量制御による伝導率制御を行うことにより、その熱電材料としての可能性を調べることを目的としている。
まず、CuIn1−xSnxO2n型焼結体とCuIn1−xCaxO2p型焼結体を作製し、それぞれSnおよびCaのド−プ量を変化させて、高温でのゼ−ベック係数と電気伝導率および熱伝導率を測定し、熱電変換の性能指数を評価する。次いで、得られた結果に基づき最適ド−プ量の焼結体によるpn接合体を作製して、温度差を利用した発電性能評価を行うことが計画されている。

本研究により、高い熱電変換性能が確認されるならば、同一母体酸化物からなるp型、n型材料を用いた初の熱電変換素子の実現が可能となり、実用的観点からもその意義は極めて大きい。


量子ドットの偏光依存性の制御方法と光通信デバイスへの応用の研究
神戸大学 工学部電気電子工学科 教授  和田修
量子ドットを利用する光デバイスに関する研究で、分子ビームエピタキシーによりコラム状の半導体ドットを形成する。光の偏波面に対する特性を評価し、かつその制御を目指す。
富士通研究所、フェムト秒テクノロジー研究機構における経験を活かした大学での研究に期待がかかる。


疎油化に着目した光半導体薄膜表面の濡れ性変換の研究
東京大学 先端科学技術研究センター 教授  渡部俊也
酸化チタン薄膜表面の光照射による超親水性発現は本研究者により'95年に見出され、以後セルフクリーニング性や防曇性を持つ材料が多くの分野で実用化されていった。しかしその光照射による親水性、疎油性の発現やそれらの経時的変化の機構は意外に複雑で、本研究者等の多くの研究によっても未だ完全に解明されていない。

本研究は、巻く表面の微妙な原子配列状態や第3成分の混在等を意識しつつ、ゾルゲル法、スパッタリング法等により多数の資料を作成し、光照射による親水性、疎油性への影響を測定し、その機構をパーコレーション理論を援用し解明しようとするものである。

成功すれば、この分野の科学に新しい知見が加えられ、特に外科手術用内視鏡中に用いられるカバーガラスの体内油脂分付着による問題が解決され患者の苦痛が防がれる等、応用分野の拡大等も期待される。

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