公益財団法人 日本板硝子材料工学助成会

平成15年度  助成研究の概要と推薦理由
表面ゾルーゲル法を用いた電子供与体
―フラーレン修飾電極の形成とその光電変換特性
九州大学 大学院 工学研究院応用化学部門 助手  秋山毅
太陽光を利用するためにシリコン半導体太陽電池が実用化され、グレッツェル型色素増感電池が活発に研究されている。

本研究は酸化チタン半導体で電荷を分離するグレッツェル電池と違って、太陽光によってドナーから分離された電子をアクセプターを通して電極に伝え、電流を取り出す新規な太陽電池を構築と高効率化をはかることを目的とする。
本研究では、新規な太陽電池を作製するために、ドナーとしてポルフィリンを使用し、アクセプターとして末端にSを有するC60誘導体を使用し、それをSで電極に結合させるために自己集合法と表面ゾルーゲル法を併用する。また、ドナーとアクセプターを区切るために酸化チタン層を導入する。
申請者は前年度の研究でドナー部分が3層である構造を作ることに成功し、3層構造が1層構造より優れていることを確かめた。また、アクションスペクトルの測定により、ドナーから放出された電子がアクセプターに移行し、ITO電極に達するという機構を確認している。

本年度は、ポルフィリンからなるドナー部位のさらなる多層化による照射光の有効利用、ドナー分子の種類ならびに異なるドナー分子の組み合わせの効果、フラーレンからなるアクセプター部位の高密度化の効果についての検討がなされ、光電変換効率の高い太陽電池の実現に向けての研究が進むものと期待される。


コバルト酸化物における異常なスピン状態と量子物性
名古屋大学 大学院 理学研究科物質理学専攻 教授  伊藤正行
高温超伝導を代表とする遷移金属酸化物で、バンド描像が破綻する強相関電子系の物理現象が発見されたことから、多様な異常物性の発現が期待できる 。
そのような新物質の遷移金属酸化物の候補としてコバルト酸化物がある 。
Co3+は(3d)6の電子配置であるから、フントの規則によると基底状態はS=2の高スピン状態になるが、ペロブスカイト型コバルト酸化物であるLaCoO3は低温でS=0の低スピン状態である 。そして約100KでS=1の中間スピン状態に転移し、約500Kでは金属絶縁体転移を起こす 。これらの異常物性は結晶場ポテンシャルとフント結合エネルギーとの競合、酸素と混成が強い強相関系によるスピン転移によると考えられる 。一方、RCoO3(R:希土類元素)も同様に500-600Kで金属絶縁体転移を起こすが、コバルトイオンのスピン状態と金属絶縁体転移の関係はよくわかっていない 。

そこでこれらの物質のスピン状態と金属絶縁体転移機構の解明、RBaCo2O5+?の異常物性とスピン状態の解明、R1−xAxCoO3−?(A:アルカリ土類元素)の異常物性の開拓を目指す 。そしてNMR法はスピン状態を理解する上で非常に有効な測定手段であるから、これを用いて異常物性の起源を解明し、従来とは全く違う機構の超伝導が発現する可能性を秘めている新規な量子物性の開拓を目指す。

これらの知見からの予測に基づいた、新超伝導物質、新しい量子物性を示す物質系の発見を期待する 。


超伝導特性をもつナイトライド半導体InNの特性制御と超高速デバイスへの応用
東海大学 電子情報学部 教授  犬島喬
InNでの超伝導性のくわしい研究。最近の研究では、InNの禁制帯幅が1.9eVから0.7eVであることが立命館の名西教授らを含む多くの研究者から報告されつつある 。ナイトライドが長波長域もカバーできるかもしれない 。謎の多いInNの解明にも役立つかもしれない。

申請者による下記の研究背景把握は妥当であり、本研究申請者の展開を期待したい 。
「InNはGa系III-V族半導体の活性領域を形成する重要な電子材料である。現在紫外〜緑領域における半導体レーザーの開発と長寿命化は、情報メディア産業にとって最大の課題であり、この波長領域をカバーできるInNをベースとするIII族ナイトライドは、そのような状況の中で、最も期待される電子材料だが、現状は、(InGa)N青色量子井戸レーザーの寿命は10000時間を越えない。青色レーザーが寿命1万時間を達成するには発光の中心となっているInNの物性理解が大変重要である。」

本研究は申請の中でも、もっとも本格的と考えられる 。


広帯域・波長無依存型波長変換素子
東京工業大学 精密工学研究所 助教授  植之原裕行
通信系トラフィックの急増に対応するため、光通信ネットワークにおける伝送の高速化、波長多重度の増加による広帯域化が急務である。そのため、従来のO/E、E/O変換を行わず、信号光を光レベルで波長変換を高速に行う波長変換技術が要望されている。

本研究では、半導体増幅器(SOA)の相互利得変調(XGM)・相互位相変調(XPM)機能が有効であるとの観点で、不均一な量子井戸(MQW)構造を用いる方法を提案した。
初年度には、不均一MQW構造をSOAに適用した場合のキャリヤダイナミックスや、利得値、微分利得係数特性を解析し、
(1)通常厚さ(10nm以下)のMQW構造では利得値との精密な考慮が必要であること
(2)厚膜(12nm)MQWによる微分利得平坦化傾向があること
(3)歪MQWによる微分利得・利得ピークの波長の同一化の可能性
を見出し、素子の設計方針を確立した。
また、SOA構造のMOCVDによる成長実験を開始し、特性評価を進めてきた。

本年度には、
(1)解析により微分利得の波長依存性を平坦にできるMQW構造の最適な井戸組成・井戸幅の導出
(2)厚膜MQW構造SOAの作製と利得特性評価を行い、再設計・結晶成長と素子作製のフィードバック
を行い、最終段階として異なる井戸幅を積層したSOA構造の結晶成長と作製を行い、XGM・XPM波長変換特性の評価を行い、初期の波長変換素子の実現を目指している。


ストークスベクトル偏光近接場光学顕微鏡の開発とガラス・高分子材料の応力・配向状態の高分解能観測
東京農工大学 工学部機械システム工学科 教授  梅田倫弘
ナノデバイスや装置において、製作および加工時に発生した応力を内包したままであると、その応力解放時に破損や性能劣化の恐れがあり、材料や素子の力学的特性の評価はナノデバイスの開発で重要となる。
本研究はナノデバイスに多用されるガラスあるいは高分子などの透明材料の応力や分子配向のマイクロ分布を、偏光計測によって評価する近接場光学顕微鏡の開発を目的としている。

申請者は光の回折限界を超える分解能を有する近接場光学顕微鏡の開発を進め、横分解能100nmの屈折率分布を計測しており、本研究はさらに次のストークスベクトル偏光計を導入結合するものである。ファイバープローブからの出力を既知のストークスベクトル偏光に設定して試料に照射し、その透過光を対物レンズで平行光にして偏光フィルターを通して4分割光電子増信管で検出し、逆行列計算により試料の偏光状態(複屈折、旋光性、二色性など)を観測し、試料の応力・配向状態の二次元分布を可視化し、評価する装置の開発である。

本研究によりナノデバイスの製作過程の向上・改善に有用な情報が得られるばかりでなく、生物細胞や組織の異方性評価への利用も期待される。


多重反射型ファイバーグレーティングの研究と開発
香川大学 工学部 教授  江島正毅
新しい研究場所で意欲的に進めている。香川大学工学部長の石川浩教授の下記推薦書は妥当なものと思われる。

「江島教授は一昨年4月に企業から本学工学部に赴任し、企業の経験を生かして教育・研究の両面で大活躍中であります。赴任後わづか1年で地域コンソーシアムを組織して産学官共同研究を推進して来ました。近年の動きにある大学改革には欠かせない人材です。彼は確実に成果を出すことが出来ます。
2001年度地域コンソーシアムを通じて掲題の実験に必要となる設備はすべて整っております。この研究成果は、当然ながら、さらに展開されねばなりません。江島教授は新たに素晴らしいアイデアを思いつき、計画を詳細に検討しております。
掲題の研究を進めて行く上で、ファイバーグレーティングを形成するためのフェーズマスクは必須不可欠であります。」


遷移金属元素含有ナノ構造超広帯域光増幅媒体の研究
豊田工業大学 大学院 工学研究科 極限材料専攻 教授  大石奏丈
光ファイバ増幅器では一般に希土類を増幅活性イオンとして用いているが、増幅帯域は狭く、数1000波規模の波長を伝送処理するDWDM伝送技術をベースとした次世代情報通信には適応できない。

本研究は希土類に比べ数10倍の広帯域性を有している遷移金属を添加した広帯域光増幅媒体の開発を目的としている。これまで遷移金属の発光は、ガラス中では量子効率が著しく悪くなるため使用されていないが、申請者はシリケートガラスの一種をホストとしてガラス状態では見られないNiイオン発光が、ナノサイズの結晶を析出させることにより、光透過性を劣化することなしに1.1〜1.7nmの波長域に現れることを見出しており、Niがナノ結晶に取り込まれることにより、多フォノン放出による無放射緩和が抑制されたためと考えられる。

本研究ではガラスホスト中のNiの無放射遷移プロセスの解明のために、光吸収スペクトル測定、X線回折、蛍光寿命およびスペクトル測定などによりNi周囲の結晶学的な構造の解析を進め、また、ナノ結晶の生成成長過程の解析をDSC測定により行い、量子効率向上の観点から最適な組成を得ることを目的としている。
本研究の発展により500nm以上の超広帯域一括増幅の光ファイバが期待される。


酸化亜鉛系薄膜を用いた非光応答性薄膜トランジスタの開発
東北大学 金属材料研究所 助手  大友明
ワイドギャップ半導体であるZnOをシリコンに代わって用いる透明薄膜トランジスタ(TFT)を実用化を目指す 。そのために結晶粒界の除去などをして、可視光に対して完全に非応答なワイドギャップ化したZnO系薄膜の作製をする 。それには結晶性の向上とアモルファス化があるが、前者はガラス基板上での素子形成が困難なため、アモルファス化を試みる 。

ZnOは結晶化しやすい性質がるのでそれを避けるために、成長条件の最適化と微量の添加を試みる 。
さらにMgO、AlNを添加・固溶すことにより、アモルファス化の際に生じるアーバック吸収を短波長側へ移動させ、可視光を完全に吸収しない非光応答性素子の形成を試みる 。あらかじめゲート電極とゲート絶縁層を形成したガラス基板上に、ZnO系混晶のバルク材料をエキシマレーザーパルスによりアブレーションする、パルスレーザー堆積法を用いて薄膜を作製する 。アモルファス化とワイドギャップ化に対する特性評価はX線回折と光吸収を用いる 。

またこれらの素子は波長可変光源による光照射下での動作チェック、さまざまな雰囲気下で動作温度を変えながら信頼性のチェックをする 。ZnOのナノ結晶、MgZnOとZnCdOの混晶薄膜でのこれまでの研究経験と成果を踏まえて、新しい職場でこの問題に積極的に取り組むことを期待する 。


光ファイバー上へのZnO極微小紫外レーザーの作製
九州大学 システム情報科学研究院 教授  岡田龍雄
本研究の目的は、 「ZnOロッドを光ファイバーの開口部先端に直接結晶成長させ、光励起によるレーザー発振を実現し、ファイバー直結の微小紫外レーザーを作製することである。」としている 。

ZnOの微小ロッドからのレーザー発振が得られているようで、実用化はさておき、おもしろい内容である。


電場印加液相エピタキシャル法を用いた低放射線被爆型γ線検知用化合物半導体厚膜作製に関する基礎的研究
静岡大学 工学部物質工学科 助教授  岡野泰則
骨粗しょう症などの診断に用いる放射線診断機の放射線検出器として、シンチレーターに代る極めて小型軽量で検出効率が高い半導体検出器の開発を目指している 。高効率の放射線検出ができる素材としてCdZnTeが知られているが、大型良質な単結晶の育成が困難である 。そこで高品質で大型のCdZnTe結晶を育成しようとしている 。CdTe単結晶を育成したブリッヂマン法では、CdZnTe結晶の育成は偏析の影響で困難と数値解析により判断した 。

そこでV-X属結晶で成功している電場印加液相エピタキシャル(LPEE)法を用いる 。そこでは物質移動現象、結晶成長速度、結晶品質に及ぼす電場印加方向の影響などを調べる 。
また種結晶として通常は不純物がない結晶を用いるが、ここでは添加物の影響も調べる 。高電気伝導性流体に磁場を印加するとローレンツ力が働き、対流が抑制されるので結晶成長で実用化さているが、電場とともに磁場を印加することの効果は未知であるので、磁場を同時に印加することも試みる 。
また大型結晶育成条件の探索のために数値解析を活用する 。作製した結晶の低被爆型放射線検出器用材料としての特性評価を行うが、エッチピット密度の顕微鏡観察や抵抗値の面内分布も測定する 。

良質な3元系結晶の育成は困難であろうが、LPEE法に電気化学的な発想を取り入れるのはどうであろうか。この半導体検出器の早期の完成を期待したい。


高温で凍結したシリカガラスの物性
豊田工業大学 大学院 工学研究科 ポストドクトラル研究員  垣内田洋
ガラスの物性は、過冷却液体からの凍結構造に強く結びついている。その凍結温度は仮想温度と呼ばれ、冷却速度と構造緩和)の速さとの関係で決まる。
シリカガラスでのRayleigh散乱、紫外吸収端、紫外線耐性などの応用上重要な光学特性は、仮想温度の変化とともに敏感に変わるため、ガラス形成過程で構造緩和を制御することは応用上重要である。
通信用光ファイバーでのRayleigh散乱は、仮想温度に比例して減少する。しかしファイバーは、その紡糸工程で急冷されて得られるため、仮想温度が1700℃程度とバルクより500℃以上高く、散乱をより低減できる可能性がある。

緩和過程が密度に依存することが知られているが、シリカガラスの密度と仮想温度との関係は他のガラスと反対の傾向を示す。さらに、仮想温度の高い領域で密度が極大値をとることが報告されている。
仮想温度1750℃まで行うためには、緩和が速すぎて十分速い急冷をすることができないので熱処理温度から室温まで、0.01秒以内に急冷することができる炉を開発し、実験を1500℃まで行なう。次に900〜1750℃の範囲にわたって仮想温度を変えた試料や添加物含有試料を作製して赤外吸収でSi-O-Si結合角の分布を調べ、密度10-5以下の精度で線膨張を測定できる装置を用いて、密度の変化を調べ仮想温度との相関を調べる。

ファイバー紡糸炉および紡糸炉直後に設置された再加熱炉で、より仮想温度を下げるための最適な熱処理条件を決めこれまで限界と考えられていたファイバーでの光損失の低減が期待される。


高密度誘電体薄膜装荷ランガサイト基板を用いた高結合・高安定ラブ波型弾性表面波
山梨大学 工学部電気電子システム工学科 助手  垣尾省司
移動体通信用通信機器のキーデバイスである弾性表面波(SAW)デバイスの基板に、水晶とニオブ酸リチウム(LiNbO3、LN)が主に用いられてきたが、広帯域化には水晶は電気⇔表面波の結合係数が小さく、LNは温度安定性に欠ける 。最近、温度安定性に優れた圧電結晶のランガサイト(La3Ga5SiO14、LS)基板が注目されたが結合係数が小さい 。
そこでLSを基板として、電極と伝搬路上に高密度誘電体薄膜(位相速度の遅い層)を形成すると、伝搬する弾性波のエネルギーを表面近傍に閉じ込めることができ、ラブ波型SAW(以下ラブ波とよぶ)の高結合化により結合係数が増大すると予測した 。

ゼロ温度係数となる方位のLS基板上に、Al電極と五酸化タンタル(Ta2O5)薄膜を形成した場合を計算したところ、結合係数はTa2O5の膜厚とともに増加し、最大値は0.7%に達し、この値はデバイスの広帯域化のための条件を満している 。またバルク波放射損失と伝搬損失も大幅に低減できる 。そこでAl電極とTa2O5薄膜を形成したLS基板上で、ラブ波の結合係数、バルク波放射損失、伝搬損失の基板方位依存性、膜厚依存性を計算し、試料を作製して、弾性波エネルギーの閉じ込め効果を明らかにする 。またそれ以降の研究計画もしっかりしている 。

作製したTa2O5薄膜や界面の性質などによってもこれらの値が大きく影響されると思えるので、LS基板の前処理を含めたTa2O5薄膜の作成条件も検討してみてはどうか。


溶融石英ガラスの欠陥構造およびその生成メカニズムの研究
福井大学 工学部 物理工学科 助教授  葛生伸
溶融石英ガラスは、半導体製造用の炉心管や高輝度放電ランプなどに使用されていが、溶融石英ガラスと合成シリカガラスは、B2帯のような吸収帯の違いだけてはなく、同じOH量であっても、溶融石英ガラスは合成シリカガラスに比べて粘度が高いなどの特徴を持つ。このような違いは、石英粉が高温で融着した痕跡が残存していることによるものと考えられる。

本申請者らが開発した表面のシミュレーションの手法を用いて、生成した表面を再度接合し、熱処理することにより原料粉が融着した界面の欠陥構造の生成過程を調べる。このシミュレーションは、電気溶融石英ガラスの生成過程に相当する。
酸水素火炎溶融石英ガラスでは、電気溶融石英ガラスとは異なる種類の欠陥が生じている。この違いを調べるために融着に際して融着する二つの表面の間に水素および酸素を配した後に接合することによる欠陥の生成を調べる。 電気溶融石英ガラスと火炎溶融石英ガラスを異なる温度で熱処理を行い、B2帯の変化およびOH基の変化を解析する。シミュレーション結果と比較することにより、溶融石英ガラスの欠陥構造の生成メカニズムを解明する。

本研究は、溶融石英ガラスの構造シミュレーションと合わせ、界面構造モデルで、溶融石英ガラス中の水や金属などの拡散を調べるなど応用上重要な性質を解明する上での基礎なる。


強相関ペロブスカイト型酸化物結晶を用いた巨大非線形材料の探索
上智大学 理工学部物理学科 助教授  桑原英樹
次世代超高速大容量情報処理技術の構築が急がれているが、数テラヘルツ/秒という超高速通信を実現するためには、電気を使わない全光学スイッチング・デバイスの開発が必要となる。
光の信号を直接、光によって制御しようとすると、光同士が相互作用を起こす場としての巨大非線形光学効果を示す物質の開発が不可欠である。半導体のようなバンド物質では、全光学デバイスに要求される性能指数が何れも同程度で、しかも必要とされる値より遙かに低い。 一方、強相関電子系酸化物での非線形性の起源はバンド物質とは全く異なっており、高い性能指数をもつ物質の存在する可能性が高い。

本研究は電荷・軌道整列相転移を示す強相関電子系ペロブスカイト型複合酸化物結晶を対象として、系統的に物質設計・合成を行い、得られた結晶について精密な超高速非線形分光測定を実施することによって、新奇な高速・非線形光学材料を開発しようとするものである。また、光照射によってスピン構造を含めた電子物性、相制御も試みられる。

正確に組成制御された良質単結晶の作製と、その光物性に関するフェムト秒レ−ザ−分光システムによる精密測定とを連携させた研究により、本研究者は既に多くの実績を挙げつつあるが、低次元格子としてのペロブスカイト型酸化物をベ−スにd軌道の縮退状況やスピン構造をも考慮しての物質設計・合成の行われる本研究の成果は新しい巨大非線形光学材料の開拓に大きく貢献することが期待できる。


高分解能電子顕微鏡法等を用いた含水アルミノ珪酸塩無機高分子の構造解明
東京大学 大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 助教授  小暮敏博
近年、フラ−レンやカ−ボンナノチュ−ブが新機能性材料の開発との関連において注目を集めており、また、ゼオライトのようにナノメ−トルオ−ダ−の細孔をもつアルミノ珪酸塩が触媒その他の機能をもつ材料として広く利用されている。
含水アルミノ珪酸塩である粘土鉱物の中にも特殊な構造・形態をもつ物質が存在している。 即ち、アロフェンは直径数nm程度の球殻状をなす低結晶質層状アルミノ珪酸塩で、球殻が完全には閉じておらず、水分子などの出入りを可能にしていると言われている。 また、イモゴライトは直径2nm程のチュ−ブ状の形態をもつ層状アルミノ珪酸塩として知られている 。 しかし、これ等の粘土鉱物は何れも細粒で結晶性が低く、その実体に不明の点が多いため、工業材料としての利用も調湿材程度に止まっている。

本研究は高分解能電子顕微鏡、エネルギ−・フィルタ−と高感度記録媒体を利用した精密な電子回折強度測定により、アロフェンおよびイモゴライトの構造の詳細を明らかにし、これ等を機能性材料の開発に活用していくための基礎資料を提供しようというものである。

現在、チュ−ブ状層状珪酸塩の合成とその利用が一部の研究者により精力的に進められているが、本研究によりアロフェンとイモゴライトに止まらず、広くチュ−ブ状、球殻状層状珪酸塩に関する構造化学的基礎が与えられ、それ等の高度な利用に道が開かれるものと期待される。


自己組織化する無機 −有機複合型二次元化合物の探索と量子井戸物性
日本大学 文理学部化学科 助手  鈴木浩一
層状ペロブスカイト型化合物(CnH2n+1NH3)2MX4(M:2価金属元素,X:ハロゲン元素)は、無機[MX4]層(量子井戸層)がアルキルアンモニウム鎖からなる有機層(バリア層)により挟まれて孤立した構造をもつ自己組織型量子井戸結晶であり、非線形光学材料などへの利用の可能性に関心がもたれている。
加えて、これ等の結晶の中には並進周期性が変調を受けている不整合相の存在が知られており、その特異な結晶構造および電子構造が新奇な物性を発現させることも期待されている。

本研究はアルキル鎖末端のメチル基をハロゲン元素X'で置き換え、無機層の金属元素としてCu,Mn,Cd等をもつ新しい種類の層状ペロブスカイト型量子井戸結晶(X'(CH2)nNH3)2MX4を合成し、アルキル鎖長やハロゲン元素の組み合せにより、どのように構造と物性に変化が見られを系統的に調べるものである。
特にメチル基をハロゲン元素で置換したことに伴う陽イオン鎖中の電荷分布や電気双極子モ−メントの変化と、結晶構造、分子ダイナミックスおよび励起子物性などの機能物性との関係に重点を置いて研究が進められる。

アルキルアンモニウムを層間にもつ層状ペロブスカイト型化合物の物性はアルキルアンモニウム鎖の長さ、ペロブスカイト層を構成する金属原子種、層の厚さにより様々に変化するが、本研究者はこれらのパラメ−タに加えてアルキル鎖のメチル基をハロゲン元素で置換することにより、更に、構造、物性に多様性を生み出すことを目指しており、その成果は新材料の創製に発展するものと期待される。


一次元ナノ空間を反応場とする導電性セラミックス多孔体の創製
山梨大学 工学部附属クリスタル科学研究センター 助手  武井貴弘
低環境負荷・高エネルギー効率である電気化学キャパシタの作製は重要であり、高効率・低コストの電気化学キャパシタを作製できれば、これからのエネルギー問題に寄与するものと思われる。そのためには、レドックスキャパシタでは比表面積の拡大、貴金属に代替する物質の使用が必要であり、一方において電気二重層キャパシタでは細孔径の拡大が必要である。そこで導電性メソポーラスシリカに着目した。

導電性にするためには、導電性物質を新たに導入する必要があるがコスト高の貴金属系ではなく導電性高分子、もしくはカーボンを使用する。メソポーナノサイズの有するメソ細孔を電気化学キャパシタに活用し、ナノレベルの電気二重層が効率よく生成すること、メソ細孔の良好な流体透過性から高効率な酸化・還元反応を促される。メソ細孔にポリアニリンを化学的に導入した方がポリアニリンの活性が向上することがわかっており、ポリピロールやポリチオフェンなどの他の導電性高分子などの使用や高分子導入量の制御によって、キャパシタ容量は大きく変化することが考えられる。有機高分子のカーボン化により電気二重層型を、導電性高分子によりレドックス型の作製も可能である。

メソ細孔への導電性物質の複合化は非常に効率的であり、大きなキャパシタ容量を持つ電極が期待できる。


金属クラスタータン担持エアロゲルの作製とその光学特性評価に関する研究
産業技術総合研究所中部センター セラミックス研究部門 主任研究員  田尻耕治
原始が数個〜数百個集まった直径0.3〜1.5nmのクラスターはバルク固体にはない特異な化学反応性や触媒特性、非線形特性を示すことが知られている。しかし、微小なクラスターは通常の大気中では融合したり、分解したりしやすい。

申請者はクラスターを実際の材料とするための研究で、シリカウェットゲルと表面被覆した金クラスターとが自発的に複合化することを見出し、金クラスター担持シリカエアロゲルの作製に成功した。
本研究は、この種材料について、クラスターの特性にたいするエアロゲル中のクラスターの分散性、エアロゲルの作製法の効果、担持状態や分散状態の影響などを研究する。本研究では、硫黄で被覆されたクラスターを液相合成法で作製し、サイズ分別をおこなう。サイズ分別した金クラスターはトルエン溶媒中でシリカウェットゲルに吸着させる。このウェットゲルを二酸化炭素超臨界条件で乾燥し、得られた粒径の揃った金クラスターの反応特性、光学特性を調べる。

本研究により、特異な反応性を示すクラスター、特異な光学的特性を示すクラスターが得られるものと期待される。また、上記研究と並行してシリカエアロゲルの微粒子(クラスター)表面を酸化チタンで被覆したエアロゲルをつくり、特性を測定する。この方法で得られたシリカエアロゲルは、シリカ単体のエアロゲルよりも表面積が大きく、特異な光触媒効果が期待される。


中赤外顕微鏡によるアルミナ焼結時の不均一収縮原因の直接的解明
長岡技術科学大学 工学部化学系 助手  田中諭
セラミックス(バルクの)材料は、最近の研究および製造技術の進歩によって、その性能は大幅に向上したが、潜在する、微小でも破壊源となる可能性のある、欠陥の制御が今一歩で未達成で、強度の信頼性が小さいことと、加工にコストがかかってその低減をどうして達成するかが最も重要且つ緊急の工学技術上の課題となっている。

申請者は、焼成前から成形体の内部の「不均質構造の分布」が焼成時に不均一収縮を起こす原因となることを確認しそれに着目し、不均一な焼成収縮を防ぎ、設計通りの形状寸法の製品を、最もコストのかかる加工(仕上げ)を殆ど省略出来るようにする研究を提案した。尚この過程で、従来とは異なる観点に立つ焼結メカニズムを発見出来る筈である。

実験は工業用アルミナ粉を用い、
(i)顆粒を乾式プレス成形した試片
(ii)スリップからキャストした成形試片
とを用意し、その内部のかなり広い範囲に亘り、申請者らが開発・改良した中赤外顕微鏡で直接観察しつつ温度を上昇し同時に、同一領域を連続観測しつづけ、粒子の形状、寸法、空隙の変化を3次元的に、適切な倍率で測定することにより現実に即した全現象が把握されるという。

この種の研究は世界各所で推進され、計算機シミュレーションによる報告もあり競争が激しいが、従来からの成果の蓄積の多い申請者の所属するグループの優位は大きいものと信じ期待している。


ナノスケール自己組織化による半導体薄膜表面の高機能化に関する研究
北海道大学 電子科学研究所 助教授 田中悟
半導体表面の自己組織化は、表面原子構造や電子状態については理論的・実験の両面から多くの研究があるが、nmレベルではあまりなされていない。

本研究はnm領域において種々の材料に発現する自己組織化現象(超規則ステップ構造や規則配列化、量子ドットなど)に焦点をあて、その物理機構を探るとともに新しい物性の探索を行うものである。
具体的には二つの実験計画がある。
(1)SiC、GaN表面ステップの自己組織化とその機構:各種材料の高温アニールによる表面構造の変化について観察し、安定化構造の考察と、自己組織化ステップ構造の制御を行う。例えば、SiC基板表面におけるステップ規則構造や二次元タイル状テラス構造の実現など。
(2)電気化学的な陽極酸化によってAl、SiC表面の自己組織化を試みる。原子レベルで平坦なAl表面における陽極酸化機構の解明により、最終的にはSiC基板上のAlエピタキシャル薄膜表面における自己組織化孔の実現を目指す。

半導体表面においてnmオーダーの自己組織化が可能になればデバイスの高性能化・新規デバイスの構築など高機能化への発展が期待される。


高電荷密度マイカ結晶化ガラスの合成とイオン伝導に関する研究
信州大学 工学部 助教授  樽田誠一
リチウム2次電池や燃料電池を構成する重要な機能材料としてイオン伝導度が高く、充放電特性の優れた固体イオン伝導体が開発、使用されているが、さらに伝導度が高く、材料物性の優れたイオン伝導体の開発が望まれている。マイカは、高いイオン伝導を示す構造の一つである層状構造を有しているので、層間に多量のアルカリイオンを導入すれば高いイオン伝導度を持つイオン伝導体となることが期待される。しかし、アルカリイオンを多量に含むマイカは空気中の水分を吸収して膨潤し、形が変わるので単独では材料として利用することができない。

本研究は、膨潤性の高電荷密度マイカを結晶化ガラス中に固定し、膨潤を防いだ新規の高イオン伝導性材料を開発することを目的としている。
このために、高電荷密度マイカのNa3Mg3Al3SiO10F2組成に基づく種々の組成について、
(1)溶融によるガラス化の可能性を調べ、
(2)加熱によりバルク状の結晶化ガラスとなる組成および熱処理条件を検討し、
(3)チタニア、ジルコニアなどの核形成剤の効果を検討する。

本研究により、層間に高密度のアルカリイオンを含むマイカ粒子が多量に析出し、高いイオン伝導度を示す結晶化ガラスが得られれば、快削性を兼ね備えた新規の2次電池正極材として広く応用されるものと期待される。


非線形誘電率顕微鏡法を用いた超高密度強誘電体記録用材料の研究
東北大学 電気通信研究所 教授  長康雄
近年、情報量の増大に伴い大量且つ高速に情報を蓄積する技術への要求が高まっている。
現在使用されている磁気記録の記録密度は理論限界に近づきつつあり、次世代の記録媒体として強誘電体の利用が注目を集めている。強誘電体は分域壁が強磁性体のそれ比べて格段に薄く、そのドメインサイズも強磁性体のドメインサイズより遙かに小さいという利点をもつ。

本研究者は強誘電体の分極分域をサブナノメ−トルの分解能で観測できる「走査型非線形誘電率顕微鏡」(SNDM)を開発し、それを用いてLiTaO3単結晶薄片に1.5Tbit/inchi2の密度をもつナノドメインドットアレイを作製することに成功している。

本研究はSNDMと薄片化単結晶記録媒体技術、更には均質な強誘電体薄膜作製技術を核にして、
(1)人工的に作製可能で、物理的に安定な最小の強誘電体ナノドメインドットの大きさの確定
(2)強誘電性の消失する限界の試料厚の確定
(3)スイッチングスピ−ドの詳細な計測
(4)強誘電体ドメイン壁の実測
等の基礎研究を行い、得られた知見に基づいて更に超高密度高速記録技術を支える材料を開発することを目的としている。

研究の中核技術は何れも本研究者により開発されたもので、その独創性は高く評価出来、得られる成果は情報記録技術に大きく貢献するものと考えられる。


放電プラズマ焼結法によるZrC-ZrB2複合焼結体の作成と評価
--MA-SHSによって合成された原料粉体の影響--
北海道大学 大学院 工学研究科 物質工学専攻 機能材料化学講座 助教授  土田猛
遷移金属の炭化物と硼化物の複合材のなかには、既存の材料に比しかなり優れた機械的、熱的性質を持つものが有ろうと期待される。けれどもまだ極めて高純度の組成及び制御された組織を持った試料は入手しにくく、しかも既存材料とのコストの比較を考えてであろうか、この方面の研究は未だ極めて盛んであるとは言えずデータは充分に多くはない。

申請者は、ZrC-ZrB2焼結体をMAとSHSで合成し、これをSPSで焼結して試験体を作りさらにX線回折により、構造を同定し、SEM、TEMにより組織を観察し、複合焼結体の強度、靱性、硬度及び耐酸化性まで調べるという。具体案では更に広い範囲を目指している。即ち、M(Al、Zr、Nb)/B/Cの混合比を種々変えて系統的、定量的に検討する。それから微細粒子の均一な組織を持つ複合焼結体を得ることを期待している。

しかし添付された発表論文からみると、今回の研究計画に直結する従来の成果は未だ充分では無く、自分が最も興味をもつ内容に向い、最も得意な技術を駆使して、例えばX線回折によって生成相を精密に調べ確実なデータを残されたらどうか。何か、特別な化合物や予想外の現象が発見されたら、そこからセレンディピティな効果で大きな展開が得られるかも知れない。

申請者の研究への鬱勃たる情熱に感動して期待をこめて推薦する。


酸化チタンのナノ起伏構造と生理活性物質との相互作用
岡山大学 工学部 生物機能工学科 助手  都留寛治
試料表面での接着作用を利用する医用インプラントやバイオチップ技術では、材料表面と生体物質との相互作用が重要であるが、申請者は表面のナノサイズの起伏構造が相互作用に大きな影響を及ぼすと考えている。

本研究の目的は、金属チタン表面の酸化チタン層のナノサイズの起伏構造と各種生理活性物質との相互作用を調べ、表面起伏構造の効果を明らかにすることである。本研究では金属チタンを過酸化水素溶液に浸漬して表面にナノ起伏構造を有する表面酸化層を作製し、表面の粗さ、表面形態、濡れ性、表面電位などを測定し、層の構造を評価する。
この表面と金属チタンやナノ多孔構造を有していない試料について以下のように生態物質との相互作用を調べる。
(1)試片をタンパク標準液と接触させ、吸着した各種タンパク質を定量してタンパクとの相互作用を調べる
(2)細胞を試片表面で培養し、一定期間後の細胞数や活性を評価し、生体細胞との相互作用を調べる
(3)血漿に試片を浸漬し、表面に血球や血小板が粘着する状況を調べる
(4)擬似体液中で試片表面に自発的骨石灰化が起こるかどうかを観察し、体液環境下での自発的骨石灰化挙動を調べる。

本研究の進展により、ナノ起伏構造の効果が系統的に明らかになれば、高機能性医用インプラントやバイオチップ機材への応用が可能になり、また、たとえば、抗血栓性の本質が明らかになると期待される。


テンプレート及び紫外光CDVプロセスを用いた石英の2次元フォトニクス結晶の作製
九州大学 システム情報科学研究院 電気電子システム工学部門 助手  中田芳樹
フォニック結晶の製作に関するもので基礎的成果もあるようだ。
多くのフォトニック結晶関連の研究のなかでも、独特な部分がある。
すなわち、マスクの穴のあいた箇所にSiO2を成長させる、いわゆるポジティブ型のフォトニック結晶である。
SiO2でのフォトニック結晶は、すぐに使えるかどうか疑問だが、面白いかもしれない。


ハーフメタル強磁性体のMOCVDにおける薄膜形成メカニズムのin situ診断
京都大学 工学研究科 電子物性工学専攻 講師  中村敏浩
次世代高密度磁性体メモリー材料として、大きなトンネル磁気抵抗効果を発現するハーフメタル強磁性体が期待される。磁性体のMOCVDプロセスでは、その原料として化学的にも複雑な分子を用いるため反応容器内での化学反応過程に対する知見が乏しいので、分光学的手法により(La、Sr)MnO3の成膜反応の基礎データを収集し、その場診断、プロセス制御のための指針を得るのが、本研究の目的である。

具体的には、
(1)微小放電発光分光及び赤外吸収分光により、MOCVDにおける気相反応について基板温度依存性などの基礎データと堆積膜の元素組成との間の相互関係を解析し、ストイキオメトリックな元素組成を得るためのプロセス条件を把握する。
(2)成膜中に強磁性体の表面・界面反応を直接に観測するために、赤外反射吸収分光法で基板表面の吸着種の振動スペクトルの測定、ならびに結晶のLOフォノンモードの検出により成長をモニターする。
また、酸素同位体ラベル作成試料のTOF-SIMS分布も相補的に行い、膜中への酸素原子取り込み反応過程も調べる。
(3)実験結果を量子化学計算に基づく反応シミュレーションと比較し、その場制御法の確立を目指している。

本研究のプロセス制御法は、多くの無機固体材料に適用可能であり、その成果が期待される。


ナノSi含有単分散シリカ微粒子の形成と自己組織化による機能発現
芝浦工業大学 工学部 電気工学科 専任講師  西川浩之
粒径が数百ナノメーターのサブミクロンのシリカ微粒子は自己組織化により立方最密充填構造をとることが知られている。
また、申請者は、SiOx(x<2)構造を含むシリカガラスを真空中で1000゚C程度に加熱すると、数十ナノメーター程度のナノSiが形成されることを明らかにしている。

本研究は、上記の知見を組み合わせてナノSiを含むサブミクロン単分散シリカ微粒子を自己組織化によって配列させ、ナノSiの機能性と組織化による機能性を発現させることを目的としている。
本研究では、まず、テトラエトキシシランを出発物質としてステーバ法により単分散シリカ微粒子を液相で生成する。この粒子を以下の高温度で真空赤外加熱装置で加熱してSiOxを形成し、ついで1000゚C付近で加熱してナノSiをシリカ微粒子中に析出させる。その後、乾燥時の自己組織化を利用してシリコン基板上にSiO2微粒子の最蜜充填構造をつくる。こうして得られた試料について発光性その他の光機能性を測定する。

本研究の進展により、サブミクロン微粒子のひとつひとつにナノSiによる光機能性が付与され、その粒子が集まってできる組織構造体がさらに新しい光機能を発揮することが期待される。


半導体ガスセンサによる臭い識別の基礎的検討
和歌山工業高等専門学校 電気工学科 教授  藤本晶
地域の特産品であるみかん、梅などの果実が熟成すると特有な香りを発するが、この香りを識別して検知する方法を開発し、倉庫内での品質管理が迅速かつ的確に行えるようにすることが目的の、地域に密着したユニークな研究である 。

酸化第二錫(SnO2)などのガス漏れ検知器に使われている半導体センサーでの表面反応に着目し、匂いを識別しようとしている 。まず半経験的な分子軌道法によるクラスター計算でSnO2センサーの応答と表面反応とを関係付けようとしている 。それには種々のアルコール、アミン系などのいろいろなガスが吸着したときに、センサーのシグナルとして現れる過渡応答や定常応答を調べる 。
定常応答はセンサーの感度を与え、分子分極Pの外部電場Eに比例する分極率αに対応する 。それに対してPのE2に比例する係数βが過渡応答であるシグナルの時定数を与え、匂いの素になる分子種の識別に対応すると思われる 。実験としては、センサーへのヒーター入力をいろいろな波形で与え、センサーを流れる変調したシグナル(電流)を検出することで、過渡応答の時定数を簡便に検出しようとしている 。

大変興味あるユニークな試みであるが、どんな波形と周波数を用いるのが適切であるかを調べることが大きな課題になろう 。これはセンサーへの微量元素の添加の影響など、センサーの特性と密接に関係する 。
このような基礎的検討とともに、一刻も早い実用化へ向けた努力にも期待する。


繊維方向割れを有するFRP積層板の破壊基準の評価 −微小配向角およびリングへの適用
静岡理工科大学 理工学部 機械工学科 助手  堀出明広
繊維強化プラスチックス(FRP)は、比強度が高く、成形技術も進歩しつつあり、酷しい特殊な用途での貴重な部品の材料として非常に注目されている。その原料を提供するガラスや炭素等の素材メーカーにとっても興味深い問題が含まれている。

しかし、本材の性質、とくに破壊挙動は、補強材としての繊維と、分散媒であるプラスチックス(炭素やセラミックスのこともある)の種類、割合、潜在する欠陥および加えられる応力など多種の因子によって変化し複雑で、従来角方面で研究されているのに未だ不充分で残された科学的課題は尠くない。製造側での研究だけでなく、使用側の立場からする破壊力学的測定、計算から使用条件下での寿命が予測されることが、安全確保及びコスト低減の面から今や不可欠である。

申請者は、本材の破壊挙動を、機械工学研究者の立場から解析する研究を、多数の積層平板の引張り試験、およびFW法で作った円筒のリングバースト試験により繰返し実施し、定性的であるが多くの成果を蓄積している。今回は特に、有限要素法により応力解析を効率よくするため、破壊力学に基いて応力拡大係数を算出し、破壊基準と比較し、この材料の真に保証できる強度を精度よく予測する。
これで、製造条件、設計基準が改良、確立されれば、本材の信頼性が向上しコストも下がり市場拡大に寄与すると期待される。


セラミックス粒界の超微細構造と高温変形挙動解析
東京大学 工学部付属総合試験所 助手  松永克志
セラミックス実用材料の多くは多結晶体であり、その中には結晶粒同士が接する粒界が必ず存在し、それは、原料、配合、成形、焼成、熱処理等製造工程で形成される。それが該材料の多くの性能を実際的に支配する因子となることが判って、それら粒界の性格・構造を原子的スケールで詳細に理解することが、重視されている。

本計画では、申請者が所属する研究室で開発された実験設備・技術を用い、一層高い純度のアルミナ単結晶からまず各種の双結晶を作製し、それらの高温クリープ挙動を測定し、さらにその前後の粒界の原子的構造解析を高分解能電子顕微鏡法を用いるとともに、格子静力学法による計算解析と合わせ、クリープ挙動との相関性を明らかにしようとする。

申請者は、前にSi-N-C-B系等の無定形相の原子構造と拡散について分子動力学的シミュレーション研究を進め、溶質原子の分子軌道計算等を行うなど関連分野における充分な体験・知見を積んでおり、今回の研究が成功すれば、両者相俟って、アルミナ以外の各種セラミックスに対しても、目的とする性能・機能に応じた粒界設計を可能とするための基準が得られると考えられる。
ナノ・マテリアルに於ては粒界の役割が急激に増大するから、この研究には益々大きな期待が持たれよう。


走査電子顕微鏡その場観察による窒化物半導体の成長機構の解明
名城大学 理工学部 材料機能工学科 講師  丸山隆浩
GaN系の成長メカニズムをその場観察しようという研究で、意欲的である 。測定法そのものの基礎データが欲しい。

申請者は、京都大学、事業団、筑波大学、立命館大学を経て、本年度より名城大学において現有装置にて研究を始めている 。現在の装置はGaAs成長用として設計されているようで、窒化物半導体成長用に改造する費用が必要とされる。
また、実際に窒化物半導体成長を行うにあたり、原料代・冷却用液体窒素代等の消耗品の費用がかかるため、上記費用が必要と思われる。

赤崎勇教授はじめGaNの拠点でもある名城大学での特徴ある研究を期待したい。


新規高プロトン伝導性層状ペロブスカイトの創製を目指した構造化学的研究
岡山大学 環境理工学部 環境物質工学科 教授  三宅通博
層状ペロブスカイト型化合物として重要なRuddlesden-Popper型結晶〔A2(A'n-1BnO3n+1);A,A':アルカリ、アルカリ土類、希土類金属元素;B:遷移金属元素等〕はペロブスカイト層と岩塩型層とが交互に重なった層状構造をもっている。
層状構造結晶には高い陽イオン伝導性を示すものが屡々みられることに着目し、本研究者は従来からRuddlesden-Popper型結晶の岩塩型層を伝導層に仕立て上げることによる、新規高プロトン伝導性結晶の作製を目指した研究を続けてきている。その結果、ソフト化学的手法により水素原子を導入した結晶HLnB1-xB'xO4(B,B':Ti,Zn,Nb等;Ln:希土類金属元素)の合成に成功し、これ等がプロトン伝導性を示すことを見出しているが、未だ実用的な高プロトン伝導性結晶を得るには至っていない。

本研究は既に合成された種々の組成をもつHLnB1-xB'xO4結晶中のH原子を重水素Dで置換した結晶を作製し、中性子回折法によりD原子位置を決定することを通じて、これ等の結晶中でのH原子の構造化学的役割とペロブスカイト層の化学的特性との関係、プロトン伝導性との関係を明らかにし、更に高いプロトン伝導性をもつ層状ペロブスカイト型結晶を設計、作製しようというものである。

層状ペロブスカイト型結晶を利用する高プロトン伝導性材料の作製は新しい試みで、その成功の可能性も高く、低環境負荷エネルギ−源として水素の利用が急務となっている現在、本研究の進展に期待されるところは大きい。


コロイド結晶テンプレート法を利用した無機多孔質電極材料の創製
長崎大学 工学部 応用化学科 助教授  森口勇
電池やキャパシターなどの機能電極の多くは、これまで電極活物質、電子導電剤、電解液を機械的に混合したものが多く、設計された複合構造が実現されたものではない。

本研究では、規則的なポーラス構造を有する金属酸化物やカーボンの合成を行い、低次元から電極構造を設計・評価することにより、高効率な機能電極デバイスの創製を目指すものである。多孔体の電極材料として、メゾポーラス体を担体として電極活物質を修飾することや電解液の浸透を考慮すると、細孔径10nm以上の安定な多孔体が必要である。
そこで、高分子ラテックスやシリカ粒子が規則配列したコロイド結晶をテンプレートにして、その粒子間隙で無機物やカーボン合成を行うことにより、規則的な細孔配列を有するカーボン、TiO2、V2O5などの単独酸化物やLixLa(2-x)/3TiO3などの複合酸化物の多孔体合成を試みる。電気化学特性、特に光電変換物性やLiインターカレーション物性との関連性を明らかにし、高性能な電極材料創製のための指針を得ることを目的とする。

高表面積でかつ電解質溶液の浸入が十分可能なポーラスカーボンを作製し、カーボン/インターカレーションホスト系ナノ複合体の構造とLiインターカレション特性の相関性を解明することにより、高速・高パワーの充放電サイクル特性に優れた二次電池の開発が期待できる。


電気伝導性アモルファスV族ピュアナイトライド及びオキシナイトライドの熱伝導度制御
神奈川大学 工学部 電気電子情報工学科 助教授  山口栄雄
熱電変換素子の材料としてBi2Te3およびPbTeが使用されているが、ともに環境に負荷を与える毒性元素を含んでいる 。一方、ポストBi2Te3として期待されているNaCo2O4はデバイス作製への道が険しい 。

これらのことを踏まえて、有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いて、電気伝導性アモルファスのV族窒化物(AlInN、GaInNなどのピュアナイトライド)および電気伝導性アモルファスのV族酸化窒化物(InON、AlInONなどのオキシナイトライド)を作製し、熱起電力の測定し、熱拡散率の測定による熱伝導率の制御・低減化を図る 。というのは高効率の熱伝変換素子を開発するためには、ゼーベック係数と電気抵抗率に加え、アモルファス構造に特有なN-N結合などによる複合欠陥や結合長・結合角の変化の構造に依存する熱伝導率を制御することが肝要である 。そのために熱伝導率を光交流法により測定し、フーリエ変換赤外分光法を用いて原子レベルでの材料評価を行い、その観点から熱伝導率低減化をもたらす原因を解明する 。

山口氏らが最近初めて作製に成功した電気伝導性V族オキシ窒化物の成果にとくに期待したい 。
しかし耐酸・アルカリ、耐熱性の点でV族窒化物に比べて劣るのではないかと危惧するし、V族窒化物で確立しているデバイス化プロセスの利用でも困難が生じるのではないだろうか 。
また複合欠陥の評価にはラマン分光も効果的であろう。


疎水性反応場を導入したシリカ―チタニア光触媒の開発
山口大学 理学部化学地球科学科 助教授  山崎鈴子
二酸化チタン光触媒は紫外線の照射下で有機物を分解するので、防臭、防汚など環境浄化のために実用化されているが、分解効率が低いために汚染物質の濃度が高い排ガス、排水には使用されていない。酸素の一部を窒素で置換して可視光を有効に利用する方法が最近開発されている。

本研究は、N導入とは異なり、有機物が二酸化チタン表面に近づきやすいように疎水性基を表面に導入する方法で光触媒の分解効率の向上をめざすものである。
申請者は、水環境問題で著名なウイスコンシン大学のアンダーソン教授との共同研究で、水分が存在すると、それが光触媒の表面をカバーするために分解効率が低下することを明らかにしたが、その過程で上記の着想を得たものである。

本研究では、チタンアルコキシッドを強酸性下でペプチゼーションし、透析操作によって精製して透明性の高いゾルとする。このゾルとシリコンアルコキシッドから同様に調製した高分散ゾルを混合し、得られたゾルからコーティング薄膜やペレットに成型する。その後、トリメチルシリル化してシリカ部分の表面にメチル基をつけて疎水性反応場とする。

このような光触媒について、疎水性場の割合と触媒活性、水の吸着を防ぐ作用を研究し、高効率光触媒開発の指針とする。この研究は地球レベルでの環境浄化技術に貢献するものと期待される。


Al2O3多結晶体における粒界物質輸送現象の第一原理的評価と制御パラメータの抽出
東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻 助手  吉田英弘
高温耐熱耐酸化性セラミックスにおける強度、靭性、高温クリープ変形、構造破壊挙動などの機械的支配因子を調べるために粒界拡散、微量添加物添加効果を理論、実験により研究する。従来添加物に機械的挙動が大幅に変化することは添加物微粒子分散効果として知られていた。

本研究ではドーパントを微量添加したAl2O3多結晶体の粒界拡散挙動を精密に調べ、さらに分子軌道計算及び動力学計算により原子間相互作用を定量的に調べるもので粒界物質輸送をドーパント効果によって制御する指針を得ることを目標としている。
具体的には、微量ドーパントを添加した試料の最終焼結段階の収縮挙動を申請者開発のレーザ変位計で測定し、その場観察と拡散挙動を解析する。また、高分解能電顕による粒界偏析観察、分子軌道、及び動力学計算による点欠陥と微量原子存在による原子間結合様式変化を詳細に検討する。

これらの研究により、微量添加物の挙動を含む物質輸送現象の制御の基礎的知見をもとに優れた高温クリープ特性の耐熱セラミックスなどを効率的に開発可能となる。
また高温機械的特性だけでなく電気的、熱的特性についても波及効果や得られた基礎的知見や理論計算により実用材料開発が期待される。
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