公益財団法人 日本板硝子材料工学助成会

各講師から一言(研究テーマの今後への思い)
入澤 寿平(名古屋大学 大学院工学研究科)

カーボンナノチューブ(CNT)を代表例にカーボンナノファイバー(CNF)の多くは気相法で生産され,高結晶性を有したCNFが得られます. 電極材等での実用化が進められてますが,繊維長の制約や粉末状態であること,また製造コスト等に課題がありました. 一方で,炭素化収率が高い高分子ナノファイバーをエレクトロスピニングにより不織布状で得て,炭素化・黒鉛化処理を施してCNFを大量生産する試みも行われてきましたが, 結晶性が低いCNFしか得られないのが課題でした. そうした背景の中で,高結晶性な炭素源となり得る高分子ナノファイバーを前駆体として開発し, さらに少量のCNTを添加することによって結晶性が極めて高いCNFを不織布状で得ることに成功しました. 将来的には,高結晶性の観点から高性能な電極材,高熱伝導材料あるいは複合材料の強化材としての応用が期待されます. 得られた知見は,炭素繊維強化プラスチックの強化繊維となる炭素繊維を省エネプロセスで生産する技術開発にも活かされ,現在では低コスト炭素繊維の研究開発へと発展しています.

永田 衞男(東京理科大学 工学部工業化学科)

世界的な課題として、エネルギー枯渇問題、環境問題が挙げられます。光触媒を用いた水素生成は、太陽光のエネルギーを用いた持続可能な手法であり、これらの課題の解決策として期待されています。 しかしながらその効率は未だ実用レベルに達しておらず、更なるブレイクスルーが求められています。 これに対して我々は、光触媒反応を用いて、廃棄物を添加することで、より効率的な水素生成を実現する光改質反応を開発しました。 現在日本では、一般廃棄物の約8割が燃焼によって処理されています。 燃焼による処理では、二酸化炭素の排出や、回収の難しい熱エネルギーとしての放出が課題となります。 光改質反応では、廃棄物がアルコールや有機酸などに直接変換されると同時に、水素製造が可能になります。 反応効率が実用化レベルまで到達すれば、家庭から排出される廃棄物は各家庭で処理され、有用な物質に変換されます。 我々はこの技術によって廃棄物の管理・回収・処理が不要になり、エネルギー・環境問題が解決される世界の実現を目指して研究を進めています。

田畑 美幸(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)

バイオセンサの中でも特にイオンセンサを用いた生体内または生体外でのイオン動態のモニタリングは、イオンが生体反応の情報伝達を担うため、その反応解析に極めて有用です。 酵素反応に代表される生体内での化学反応の多くは反応過程にプロトンの出入りを伴います。 そのためプロトン濃度を示す指標であるpHを検出するイオンセンシングは生物学的現象や生体反応を理解するための重要な情報を提供します。 私は、金属酸化物を利用したプロトン応答イオンセンサをバイオセンシングに応用しており、生物学的または医学的知見と照らし合わせることで医療および歯科分野の疾病診断へ繋げることに取り組んでいます。

七井 靖(防衛大学校 電気情報学群機能材料工学科)

近赤外分光分析による食品、建築部材、生体組織、危険物などの非破壊検査技術は我々の生活の安全を支えています。 近赤外分光分析では広帯域な発光帯を有する近赤外光源としてランプが用いられていますが、装置の小型化、省エネルギー化、高機能化の達成のために発光ダイオード(LED)への置換が望まれています。 本研究では、狭帯域なLEDの光を広帯域な近赤外光に変換する蛍光体を開発することを目的とし、ガラスおよび結晶を用いた材料探索およびその物性評価を進めています。 かつて白色LEDが世界に新しい光をもたらしたように、本研究の発展によって得られる新しいLEDが我々の生活をより豊かにすると信じて、研究を推進しています。

 松井 裕章(東京大学 大学院工学系研究科)

省エネルギー技術は、将来のグリーン社会の実現に向けて重要な課題です。特に、住宅や自動車等の室内環境の熱制御は、快適な社会環境の維持に必要不可欠な観点です。 本課題は、酸化物半導体とナノ光技術との異分野融合から生まれた新しい遮熱制御技術となります。 透明トランジスタ(IGZO)や透明電極(ITO)として知られる”ありふれた材料”を、異なる研究視点から現在の社会的課題(熱マネージメント)を突破する。 本研究は、予期せぬ(セレンディピティ)ことから始まり、基礎研究から産学連携(新しい遮熱技術の開発)までを網羅する研究に発展しました。 異なる方向から材料を眺めること「異分野への積極的な研究アプローチ」は、新しい研究風景を我々に与え、新しい知や技の創造に繋がると考えております。

<事務局より>

研究の発表は、通常、事実のみを客観的に説明するものですが、今回、各講師にお願いして、あえて、研究テーマの今後への熱い思いを書いて頂きました。 レジュメ、講演に加えて、これらが本日ご参加の皆様と各講師との意見交換・交流のきっかけになればと願っています。


サイトマップ トップページ
(c)公益財団法人 日本板硝子材料工学助成会
個人情報保護方針このサイトについて