公益財団法人 日本板硝子材料工学助成会

各講師から一言(研究テーマの今後への思い)
岩本 敏(東京大学 先端科学技術研究センター)

処理すべき情報量の爆発的増大に伴い、サーバなどの情報処理機器においてもフォトニクス技術の重要性が高まっています。 トポロジーの概念を光に適用するトポロジカルフォトニクスは、急峻曲げが可能で構造ゆらぎに強い光導波路やそれらを活用した光遅延線や一方向レーザなど、将来のフォトニクス技術の発展に貢献し得る様々な応用への展開が期待されています。 我々は、構造ゆらぎや欠陥があっても一方向にのみ光が進むカイラルエッジ状態と呼ばれる光トポロジカルエッジ状態とそれを用いた導波路を光通信波長帯で実現することを目指しています。 今回の研究では、磁気光学効果を示すENZ (Epsilon-Near-Zero)材料を利用することにより光通信波長帯の広い波長範囲で光カイラルエッジ状態が得られることを理論的に明らかにしました。 材料開発においては課題が多く残されていますが、材料科学の進展がトポロジカルフォトニクスの新展開をもたらすと信じています。 光・フォトニクスの研究には非常に長い歴史がありますが、トポロジーの視点で光を眺めることにより、新たな発見や応用の可能性が見出されるはずという信念をもって今後も研究を進めていきます。

黄 晋二(青山学院大学 理工学部)

2010年のノーベル物理学賞の対象になって以来、グラフェンは新規2次元材料として世界的に大きな注目を浴びていますが、実用化に至っているグラフェンデバイスはほとんど無いと言えます。 当初は非常識と思われた「わずか原子数層のグラフェン透明アンテナ」ですが、研究を進めていく中で実用化の可能性を見出すに至りました。 近い将来、グラフェン透明アンテナが高層ビル の窓や自動車のフロントガラスに搭載される日を夢見て研究に取り組んでいます。

小幡 亜希子(名古屋工業大学 大学院工学研究科)

病気や怪我で損傷を受けた身体の組織を治療すべく、様々な生体材料が研究開発されています。 どのようなタイプの材料においても共通する理想的な機能は、元通りとも言えるほどの完全な治癒を迅速に実現することでしょう。 超高齢社会に突入した現状をふまえても、上記のような機能を有する高機能性生体材料は今後ますます要求されると考えます。 私たちは、セラミックスやガラス素材をベースとしつつ、生体材料の高機能化の実現を目指し今後も研究に取り組んでいきたいと思っています。

前之園 信也(北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科マテリアルサイエンス系)

熱電材料をエネルギーハーベスティングへ本格利用することを考える場合、既存の熱電材料では廃熱量が多い300℃以下の低温領域において熱電変換効率が低いという問題があります。 加えて、既存の高性能な熱電材料系はPb、Te、Seといった希少及び/または毒性が高い元素を含んでおり、産業応用上の観点からは、地球上に豊富に存在し、かつ毒性の低い元素のみからなる高性能熱電材料の開発が喫緊の課題となっています。 2011年に方輝銅鉱やデュルレ鉱などの硫化銅鉱物が比較的高い無次元性能指数ZTを示すことが報告されて以来、四面銅鉱やコルース鉱などさらに高性能な硫化物系熱電材料が見出されていますが、TeやSeを用いた従来材料に比べるとまだZTが低く、実用化に向けてはZTの更なる改善が必要です。 ZT向上の一つの方法論として、原子スケールからメソスケールにわたる階層的欠陥構造制御が注目されています。 我々は化学の立場から精密な階層的欠陥構造制御を施す技術を開発しており、将来的にサステイナブルで高性能な硫化物系熱電材料の創製に資することを目標に日々研究を進めています。

内野 隆司(神戸大学 大学院理学研究科)

超伝導体を常伝導体と接触させると超伝導内に存在するクーパー対の位相情報が常伝導体中に伝達され,常伝導体の一部が超伝導化します。 この現象は,超伝導近接効果とよばれ,この現象を活用したジョセフソン接合素子は,SQUID(超伝導量子干渉計)として実用化されています。 超伝導近接効果を発現させるためには,超伝導体と常伝導体の界面を原子レベルでクリーンに保つ必要があります。 我々は,金属マグネシウムと酸化ホウ素(B2O3)の固相酸化還元反応により,超伝導体であるMgB2と絶縁体のMgOが生成し,かつMgB2がMgOマトリックス中にクリーンな界面を保ちつつ,自己相似(フラクタル)的に分散することを見出しました。 その結果得られた超伝導/常伝導複合体は,極めて良好な超伝導近接効果を示し,MgB2の体積分率が30%程度であっても,系全体がバルク的な超伝導を示します。 この現象は,電子構造の階層的構築により強固な位相コヒーレンスが生じうることを示しています。

<事務局より>

研究の発表は、通常、事実のみを客観的に説明するものですが、今回、各講師にお願いして、あえて、研究テーマの今後への熱い思いを書いて頂きました。 レジュメ、講演に加えて、これらが本日ご参加の皆様と各講師との意見交換・交流のきっかけになればと願っています。


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