公益財団法人 日本板硝子材料工学助成会

平成17年度  助成研究の概要と推薦理由
シリコン基板上への硫化亜鉛系強磁性ワイドバンドギャップ半導体の作製に
関する研究
鳥取大学 工学部 助教授  市野邦男
半導体において磁性、あるいはキャリアのスピンを積極的に用いようとするいわゆるスピンエレクトロニクスの研究が盛んになっている。そのなかで、スピン偏極したキャリアの供給源として、あるいはフィルタとして用いるために、強磁性化した半導体を室温において実現しようとする研究が国内外で活発になされている。そのアプローチとして、代表的な強磁性半導体であるGaMnAsを材料としてそのキュリー温度(強磁性転移温度)の上昇を図る、あるいは、異なる材料系で室温以上のキュリー温度を持つものを探索する、などの研究が理論的・実験的になされている。

しかしながら、室温強磁性半導体に関しては未だ探索途上であり、今後も集中的に研究がなされる必要がある。また将来的に、現在の半導体デバイスの主流であるSiデバイスへ応用することは大きな意義があると思われるが、そのような観点からの取り組みは多くないように思われる。

本研究ではZnS系ワイドバンドギャップ半導体の室温強磁性化、Siデバイスとの集積、受発光機能の集積等を目指して研究を進めるものであって、磁性半導体の可能性を広げることに意義がある。申請者は京都大学卒業後、鳥取大学において、紫外・可視発光素子を目的としたZnS系半導体の研究を長年にわたって行なってきた。ZnS系半導体の成長に最適化した分子線エピタキシー(MBE)装置の設計・導入、ZnMgS混晶を含む量子井戸構造の設計・製作、nおよびp型ドーピングなどで、これらの過程で蓄積した結晶成長技術は、本研究において直接利用可能なものである。
ただ、指導者であった小林教授が退職後は研究費の獲得が必ずしも易しくないと想像される。


酸化物ナノファイバーと生体物質とのハイブリッド材料
独立行政法人 物質・材料研究機構 物質研究所アソシエートディレクター  一ノ瀬泉
申請者は、酸化物ナノ薄膜の分子機能に関する研究を行い、高分子のような極めて細長い酸化物ナノファイバーを見出した。直径が約2ナノメートルであるにも拘らず、その長さが数マイクロメートルにも達し、標準的なDNA鎖のサイズとほぼ一致しており、金属塩の水溶液のpHを制御することで、定量的かつ大量に形成され、薄膜やシートとして加工することもできる。
高分解能TEM観察とその結晶学的な考察、さらには色素吸着を応用した滴定実験によって、ナノファイバーが結晶性の金属水酸化物であり、その表面が著しく正に荷電していることが明らかとなった。

例えば、水酸化カドミウムのナノファイバーでは、表面に存在するカドミウム原子の約半数が正電荷を帯びており、水中で負に荷電した有機物質を強力に吸着した。ナノファイバーの表面の周期的静電ポテンシャルは、アニオン性の生体物質を一次元に配向固定化することが可能で、得られるナノハイブリッドは、フィルムやシート状に加工することで、新しいセンサーの開発や生体機能の診断などに利用することができる。
また、ナノファイバーと生体物質とのハイブリッドは、微量な生理活性物質の抽出や分離、分析システムの構築、あるいはドラックデリバリーの担体としての応用が期待できる。


熱可塑性樹脂からの多孔質カーボンの新規作製法の開発
―賊活過程を経ない作製―
愛知工業大学工学部応用化学科 教授 稲垣道夫
多孔質カーボンには大きな新用途が見えはじめ各方面から注目されている。と同時に要求される性能も多様化し、コストについても努力が望まれよう。従来の製法では、とくに長繊維状のものに対しては、まず“不融化”処理をし、さらに“賦活”処理を必要とするのが常識となっており問題も多く在った。

本研究者は、MgO粉末にPVA粉末を機械的に混合し、不活性雰囲気中で900℃に加熱するだけで、不融化も賊活処理もなくて、1500m2/g級の多孔質カーボンを得て、この新しいプロセス・ルートの研究・開発を発起している。成功すれば科学的・技術的に大きな展開の端緒となりコスト低下、競争力の強化につながり得よう。

MgOと有機高分子・炭素との界面におけるナノサイズレベルの挙動・反応が解明されれば基礎科学分野の大きな成果となり、ペットボトル屑など廃棄物中の熱可塑性プラスチックスの活用が可能となれば資源循環に役立とう。

本実験研究において、2〜3の評価技術が緊要となろうが、申請者の豊かな経験、人脈がこの多大な課題の解決に役立つものと期待している。


銀を拡散促進材としたNb3Sn超伝導線材の製造法
徳島大学 工学部電気電子工学科 教授  井上廉
NMR分析装置はタンパク質の構造解析など複雑な生体物質の構造を決定する有力な武器としてX線回折とともに良く用いられるようになった。その分解能はより強力な磁場が得られればさらに飛躍できるとされているが、磁場強度は超伝導材料の性能によって制約されている。

本研究は実用的に用いることのできる線材として世界最強の磁場を得るための超伝導線材を開発しようとするためのもので、申請者の長年の研究実績の上に立って提案されている。その綿密な計画に基づいて着実な成果を期待できると考える。


伝導性亜酸化物薄膜の物性および反応性
立教大学 理学部化学科 教授  枝元一之
Ag(100)表面を基板として亜酸化物のTiO(100)、NbO(100)薄膜を作製し、その物性を測定しようとしている。これらの亜酸化物はNaCl型結晶で、格子定数がAgと近いため、亜酸化物薄膜がエピタキシャル的に成長すると考えられる。そこでAg(001)清浄表面に酸素雰囲気下でTiを蒸着し、TiO薄膜を作成する。そこではTiの蒸着速度、酸素の圧力、基板温度をパラメーターとして、結晶性の良いTiO薄膜が得られる条件を見出す。またNbOについても同様に行う。そしてCO、H2、SO2分子を吸着させ、光電子分光測定により吸着状態を調べたり、それぞれの反応性を測定する。しかしこの方法で意図する酸化数と一致し、組成が均一で、しかも結晶性の良い薄膜の作製は容易ではないと思う。

亜酸化物薄膜表面は極めて仕事関数が低く(3eV以下)、気体分子に対して金属酸化物としては異常に高い付着確率を持ち、単体遷移金属なみの活性を示すことをすでに見出している。そのため電子放出材料や触媒などの分野における新規機能性材料となりうる可能性を持つ。

したがってこれらができたならば興味ある物性、反応性が期待できる、チャレンジングな研究である。ただ結晶性の良い薄膜を得るにはAg基板にこだわることなく、高融点金属なども基板の候補として検討した方がよいかもしれない。


フェライトの磁性制御を目指した無機化合物中における
金属占有サイトの新しい識別法
独立行政法人 物質・材料研究機構 材料研究所 研究員  江場宏美
結晶質のセラミック材料では構成元素が結晶構造中で何れの原子位置をどの様な割合で占めているかが、性能を大きく左右する場合が多い。そして、この元素の席分配は結晶の生成条件により変るのが一般であり、材料の組成、作製条件と元素の席分配の関係を知ることは重要である。

本研究者はフェライトの磁性向上を目指した研究の過程で、スピネル型のマンガン亜鉛鉄酸化物 (Mn,Zn)Fe2O4 におけるMn の席分配が、Mn のKβ1,3 線に対するサテライト線Kβ’およびKβ5線の強度比から決定できることを見出した。従来、結晶構造中の元素の席分配に関する情報を得ようとする場合、X線吸収微細構造の観察や、異常分散を利用するなどの精密な結晶構造解析に頼らざるを得なかった。
しかし、これ等の方法では試料の調整を厳密に行う必要があったり、膨大な時間と労力を必要としたりするため、多数の試料を系統的に調べることは困難であったが、本研究者等が見出した蛍光X線の強度比を利用する方法では、測定精度を特に高める努力を払うことなしに満足できる結果が得られるので、迅速に席分配が決定できる。

本研究は、この蛍光X線の強度比から元素の席分配を求める手法を活用してフェライトの 性能向上を図るとともに、更に多くの元素やスピネル型以外の構造をもつ結晶にも、この方法を適用できるように発展させることを目指すもので、その成果は広くセラミック材料の研究、開発に貢献することが期待される。


ナノ微粒子を分散させた高温超電導薄膜の創製とNMR超電導プローブへの応用
山形大学工学部 工学部電気電子工学科 教授  大嶋重利
本申請はナノスケールの酸化物を分散させたヘテロエピタキシャル高温超伝導薄膜を作製し、それをNMR用の電磁波検出器の性能向上のために利用しようとするものである。そのねらいはNMR計測コイルのQ値を上げることにあり、計測時間の大幅な低減あるいは感度向上につながる。申請された研究の特徴はそれを行うにあたって、薄膜高温超伝導体中にナノ粒子を析出させるところにあり、それにより強い磁場のもとでも低い表面抵抗を有する薄膜を得ようとするものである。

この試みが成功するかどうかは自明ではないが、申請者は明確なシナリオを描いており、本研究でその試みを可能にすることは意義深いと考える。


PtSiの仕事関数制御と高誘電率ゲート絶縁膜上への形成
東京工業大学 大学院 総合理工学研究科 物理電子システム創造専攻 
助教授 大見 俊一郎
LSIの高密度化をさらに進めるべく行なわれている電子デバイス・材料関連の研究。ゲート絶縁膜材料と金属材料の新しい構成の提案とその実現を目指すもの。

金属としてシリサイド(PtSi)を,高誘電率材料として酸窒化ハフニウム(HfOxNy)を用いる。シリサイドの仕事関数制御と高誘電率ゲート絶縁膜上への形成に関する半導体デバイスのオーソドックスな研究である。  

MOSFETのゲート絶縁膜極薄膜化に伴う、トンネルリーク電流の増大及びpoly-Si電極の空乏化によるSiO2換算膜厚(EOT)の増大に対応すべく、本研究では、シリサイドゲート/高誘電率ゲート絶縁膜積層化ゲート構造の実現を目的としている。超LSIのさらなる高密度化に寄与するものと期待される。


ガラス材による回折型光学格子の新ナノプレシジョン加工技術の研究
独立行政法人理化学研究所 大森素形材工学研究所 主任研究員  大森整
本研究は光学ガラス材料の平面ブランクから非球面などの形状面を切削し、さらにその面上に光学格子溝(ピッチ、深さともに1μm〜250nm)の切削を、1nmの分解能および非接触駆動を可能とする超精密ナノ精度加工システムの開発を目指すものである。
ツールとして使用する単結晶ダイヤモンド工具の摩耗を低減するために、加工液の気化熱に着目して、0℃付近での低温加工法を試みる。溝切削にはダイヤモンド工具を2方向に施回させ、溝傾斜とアスペクト比を制御できる新工法を検討している。光学ガラス材料は硬質・脆性材料であるが、1回のシングルポイント切削の切り込み深さとして100nmを目標とすれば、脆性破壊を生じさせることなく、延性モードで加工できるので、単位時間当たりの総切込み量を稼ぐために、超音波振動およびフライカット(回転する1枚刃もしくは2枚刃の工具による加工)方式を用いる独創的な加工法である。

周期的溝構造の高精度かつ高効率な超微細加工法の確立は、次世代ナノ光学素子・デバイス開発に強力にリンクできるものと期待できる。


構造化高密度磁性微粒子を用いた
植物花粉細胞への遺伝子導入技術に関する研究
(社)植物情報物質研究センター 第3研究室 室長(理事長) 角田英男
本申請はミクロンサイズのマグネタイト磁性微粒子を用いて遺伝子導入済みの細胞を磁気的に選択・濃縮する申請者らの開発してきた手法をさらに発展させようとするものである。
申請者らは花粉微粒子細胞を対象として磁性微粒子を用い遺伝子導入実験を行い、その後磁石による磁力選別を実施して花粉を回収・受粉することに成功しているが、実用的形質転換手法としての効率は未だ不十分であり、その効率を上げるための粒子構造の複合化や遺伝子導入細胞の効率的な選抜法の開発を目指しており、その試みを支援することには意義ありと見受ける。


モード結合理論の定量的解釈による液体ガラス転移ダイナミクスの研究
筑波大学 大学院 数理物質科学研究科 物性分子工学専攻 助手 狩野旬
ガラス転移を論じるスローダイナミクスのモード結合理論での緩和機構を理解するためと、ガラスに特有な複雑なポテンシャルの多谷構造を考察するために肝要な、しかもモード結合理論では非線形効果により現時点では導出が困難な、応答関数G(t)の精密測定をする。
それにはG(t)が直接観測できる超短パルスレーザーを用いた光学ヘテロダイン検波カー効果を用いる。それをコンピューター精密制御の温調セルと組み合わせ、過冷却状態を経てガラス転移が起きる過程のスローダイナミクスを、超短パルス光を用いてコヒーレントに励起し、広い時間領域(フェムト秒〜ミリ秒)をリアルタイムで観測する。さらに緩和時間τも精度良く観測することができる。
それに対して従来から行われている、誘電測定では観測できる周波数領域に上限(〜30GHz)があり、光散乱分光、X線・中性子非弾性散乱の散乱実験では下限(1GHz〜)が生じる。そしてこの方法を強いガラスと弱いガラスに対して適用した実験を行う。

現在のポジションを得て間もない時点で新しい研究を始めるには、いろいろな困難に遭遇するかもしれないが、これまでの経験を活かしてよい成果をあげることを期待したい。


クラスターイオンビームによる高生体活性材料の創製
京都大学 大学院 工学研究科 附属イオン工学実験施設 助教授  川下将一
人工材料が生体活性を示すための必須条件は、生体環境下で材料表面にアパタイトの核形成に有効な官能基が形成されることである。材料表面に生体活性層を形成させる試みがなされているが、生体活性薄膜を基板に強固に接着させることが困難であるなどの問題点がある。

そこで、生体骨と同等の高いアパタイト形成能を有し、しかも骨と強固に結合する骨修復材料が求められている。
一方、エタノールやアルゴンなどの種々のクラスターイオンを生成し、これを電界で加速して試料表面に照射する、クラスターイオンビーム法によれば、アパタイト形成に有効な官能基を多量(非化学量論的)に導入できる可能性がある。従って、同法により得られた材料は、従来の手法で得られた材料よりも高いアパタイト形成能を示すと期待される。 

本研究では、基板としてポリエチレンテレフタラート(PET)を用い、アルゴン、エタノールなどの種々のクラスターイオンビームを種々の条件で照射する。クラスターイオンビームによる試料の表面構造変化を、X線光電子分光法、フーリエ変換赤外反射分光法、原子間力顕微鏡などにより調べる。これにより、アパタイトの核形成に有効な官能基を試料表面に多数形成させるのに適したクラスターイオンビーム照射条件が明らかになると期待される。
このように、種々の材料の表面をクラスターイオンビームにより改質し、アパタイトの核形成を誘起する官能基(COOH基)を材料表面に高密度に形成させる方法により、生体内で短期間のうち(数時間〜1日以内)にアパタイトを形成し、それを介して骨と強固に結合する高生体活性表面を得られることが期待される。


TiO2/CeO2/ZrO2系3重人工格子構造をもつ高誘電率エピタキシャルバッファ層の創製による酸化物エレクトロニクスデバイスの高効率化
東京工業大学 総合分析支援センター 助手  木口賢紀
酸化物エレクトロニクスにおいて、強誘電体薄膜などの電子・光学セラミック薄膜とSi基板との間の、電気的・結晶学的な欠陥を可能な限り抑制しながら両者を接合するために、バッファ層と呼ばれるゲート絶縁膜を積層する。本研究では、リーク電流が高く単独では使用できないが、非常に高い誘電率(〜80)を持つTiO2に着目し、高誘電率と共に高い絶縁性を持つZrO2とエピタキシャル人工格子を形成することによって、ZrO2単層ではなし得ない高誘電率を発現させ、かつZrO2の高い絶縁性によってTiO2の低リークの特性をカバーすることができる。ZrO2とSiの格子ミスマッチは水素終端処理Si基板上のZrO2層の堆積を3nm以下にすれば界面特性を劣化させることなく、疑似形態を維持できる。また、ZrO2層にTiO2層を直接堆積すると疑似形態が破綻してしまうため、Siとの格子ミスマッチの小さいCeO2層を疑似形態の維持のため堆積する。すなわち、薄いZrO2層を第1層として、CeO2層、厚いTiO2層を周期とする3重人工格子を繰り返し堆積することによって疑似形態を維持したまま、低転移密度の高誘電率エピタキシャルバッファ層の創製が可能となる。

本研究によってSiデバイスの低電圧駆動、高集積化が可能になり、省エネルギー・低環境負荷デバイスが期待される。


ナノ構造制御による超高速応答と偏光無依存性を同時実現した
半導体光アンプの研究
神戸大学 工学部電気電子工学科 助教授  喜多隆
本研究の目的は、偏光依存性の無い半導体増幅器(SOA)を、ガリウムひ素(GaAs)を基板に用いて1.3ミクロン波長帯で実現することにある。具体的な方法としては、GaAs基板上に形成するInAsの量子ドットの積層成長により、水平方向の活性層幅と、垂直方向の厚みを近づけて水平方向(TE)と垂直方向(TM)の偏波に対する増幅度を等しくすることを原理とする。研究の根幹は、分子ビーム成長法(MBE)による構造形成、偏光特性などの特性評価、光増幅器デバイスの製作を考えている。

量子ドット積層形成法は富士通研究所の菅原らが始めたもので、当初は試料を得て偏波特性に着目した研究を開始したのが発端になっていたが、その後研究室で保有するMBE装置を用いて自ら成長を可能にしている。

研究の成果としては、
(1)GaAs基板上の積層量子ドットにより、偏波依存性の無い発光特性を得ている。
(2)偏波無依存性の物理的に理解している。
(3)上記理解を元に、オリジナルな偏波無依存構造、例えば、InGaAsカバー層の使用、窒素導入による薄い窒化層の利用などの発案にいたっている。

評価
1.研究方法も、結晶成長から評価まで、着実に行っており、しっかりした研究を進めている。
2.研究成果は期待以上であり、国際会議でもこれから発表する予定である。
3.新しい研究展開も見えていて期待が持てる。


広帯域電磁波吸収体用一体焼結型高損失誘電体・磁性体複合セラミックス材料の開発
東京工芸大学 工学部 講師 北原直人
近年、無線情報通信機器の発展に伴って、充分に広い周波数帯域で使用できる電波吸収体の出現が望まれながら、未だ満足できるものが作られていない。

本申請者は、広い分野の研究者と協力し、通信機回路素子理論と各種の誘電体セラミック材料及び磁性体材料を組み合わせたセラミック複合材料の焼結技術を駆使して試作した素材につき、電磁波工学関係の測定を行った結果を総合して、目的とする広帯域電磁波吸収体として使用可能な一体型のセラミック複合材を製造できることを見出し報告している。焼成用の高温、雰囲気調整炉等が充足され、試作研究が進展すれば、今回の目標とされた無線周波数全域に対応できる電磁波吸収体が製造できる技術が確立されるとともに、通信機器用の回路素子等の小型化、低コスト化等にも役立ち大きな功献がなされるものと期待している。

計画でも述べられているように、セラミック誘電体材料と磁性合金材料との間の、軟化・融解温度等の差が大きく、従って配合割合、粒度、粒径分布さらに焼成温度や雰囲気などにも課題は少なくない。常に工夫を凝らし前向きに丁寧・正確な実験を継げ、解析すればさらに新しい発見が得られるものと期待される。


ハロゲンガラスのフェムト秒レーザによる分相制御および光機能
北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター 助手  邱建備
本研究は、塩素を添加したフッ素化物ガラス内部中に、フェムト秒レーザ光を集光照射し、ナノ領域に希土類イオン(SmあるいはEu)が塩素リッチ分相粒を選択的に析出させることにより、集光照射部分のみ発光イオンの価数を局所的に変化させ、スポット読み出しのコントラスト(S/N)を向上することによって、高密度三次元メモリデバイスの実現を目指すものである。

申請者らは長年にわたり、種々の希土類イオンをドープさせたガラスのアップコンバージョン蛍光について研究し、特に酸化フッ化物ガラス系を第一結晶化温度での熱処理によって希土類イオンを固溶したナノ結晶を得ることで、蛍光の量子効率を格段に高めることができること、また、フェムト秒レーザ光を微量OH基を含有した純粋シリカガラス内部に照射し、三次元的に構造誘起させることに成功しており、これらを総合して、上記のナノデバイスへ応用の可能性を探る研究である。
計画として、種々の組成でフッ化物ガラスの作製とガラスの熱分析により分相温度、フェムト秒レーザ光の照射によるイオン価数のしきい値、分相粒子サイズとイオンの発光特性の関係などを解明するもので、三次元光メモリデバイスの新しい媒体として期待される。


As-Se-Te系カルコゲニドの光誘起相転移の研究
筑波大学 大学院 生命環境科学研究科 講師  興野純
これまでにAs4S4の光誘起相転移の研究をX線回折(XRD)、X線光電子分光法(XPS)を用いて行ってきた。鶏冠石(α相)は500〜670nmの光誘起により、As4S4の多形の一つであるでパラ鶏冠石が生じることが知られている。その相転移はAs4S4の表面が光化学反応によって空気中の酸素で酸化され、その際遊離したS原子がAs4S5分子を一時的に形成し、次いでS原子を放出してAs4S4分子に戻るという機構で起きると推定できる興味深い実験結果を得ている。そこでAs4Se4、As4Te4の光誘起相転移のメカニズムを構造解析の立場から解明しようとしている。

これらの光誘起相転移が非晶質⇔結晶質の可逆的な相転移であることを利用して、書き換え可能な光ディスクへの応用を考えているようである。本研究はそれとは直ちには結びつき難いが、基礎研究の立場から突っ込んだ研究を進めるのがよいのではないか。たとえば可逆的な相転移が起きることと関連して、わかっているのかもしれないが、パラ鶏冠石→鶏冠石(α相)の光誘起相転移の逆過程がどのような条件で起きるのか。また一時的に生じるAs4S5から鶏冠石(α相)に戻らずにパラ鶏冠石になるのはなぜかなどの問題が残されていると思う。もし光誘起相転移の逆過程が熱で起きるならば、分子または固体の局所的な構造の対称性が転移の方向に関係してきそうである。


外部電場印加を用いた周期双晶を内包する擬似位相整合
四ホウ酸リチウム単結晶の作製
東北大学 金属材料研究所  助手  黄晋二
エキシマレ−ザ−に代わる固体の真空紫外光源として、YAGレ−ザ−光の第6高調波(波長177 nm)光源の実現が望まれている。この第6高調波に対して透明な非線形光学結晶のうち、複屈折位相整合が可能な結晶は有毒なBeを含む結晶以外には知られていない。一方、周期的に結晶方位を反転させるという方法で得られる擬似位相整合を利用した周期分極反転 LiNbO3デバイスが近年大きな成功を収めている。そこで、本研究では波長177nmの光に透明で、大型結晶の育成が比較的容易な非線形光学結晶 Li2B4O7に擬似位相整合を実現し、目的の第6高調波を得ることが計画されている。しかし、Li2B4O7 を始めとして、波長 177nm の光に透明な非線形光学結晶は何れも常誘電体であるため、LiNbO3の場合のように、結晶に対する電圧印加により分極反転を生じさせることはできない。

本研究者は、極性結晶では結晶育成時に成長界面に外部電場を印加することにより、成長する結晶の方位を反転させ得る可能性のあることに着目し、実際にLi2B4O7結晶の育成を行い、凝固方向をa軸に選ぶと方位が反転できることを見出した。本研究はこの成果を踏まえ、a軸に沿って周期的に方位が反転した集片双晶結晶を育成し、擬似位相整合の条件を実現してYAGレ−ザ−光の第6高調波を得ようとするものである。その成果は単に真空紫外域全固体レ−ザ−光源の開発に貢献するのみならず、結晶育成技術そのものにも新たな知見を加えることが期待される。


λ/4同軸線整合VHF-ECRプラズマCVDによるナノクリスタルSiGe高速成膜の研究
東京工芸大学 工学部 システム電子情報学科 講師  小林信一
SiGe半導体の高速成膜に関するプロセス研究である。資源の枯渇や燃焼による地球温暖化の心配がないクリーンなエネルギー源として太陽電池など太陽エネルギーの有効利用が期待されている。水素化アモルファスSi(a-Si:H)を用いる太陽電池は安価で大面積化が可能であるが、いくつかの問題点がある。
すなわち、
(1)波長0.7μm以上では感度を持たず0.3〜2.5μmまでの波長範囲を持つ太陽光の一部しか利用できない、
(2)光劣化する、
(3)高品質膜の成膜速度がまだ1Å/sと遅い、
などである。

しかし、本研究で扱う水素化アモルファスGe(a-Ge:H)はバンドギャップ(1.1eV)でa-Si:H(1.8eV)より小さく長波長側に感度をもち、かつ光劣化がない。そ野ため、SiとGeの合金や積層構造により感度波長を拡げ、劣化が少ない太陽電池の実現が期待されている。さらにそれらの微結晶(μc)化、ナノクリスタル(nc)化により長波長側の感度波長範囲を拡大し光劣化を抑制した高効率太陽電池が期待できる。

本研究では、バンドギャップの異なるSi、Geの合金により上記の問題を解決しようとしている。光電変換波長帯域が広く、高効率で光劣化のない配向制御されたnc膜を、新しい30〜300MHzでプラズマを励起するVHF-ECRPCVDにより堆積速度10Å/s以上の高速成膜することを目的としている。従来のRF-P(プラズマ)CVD(Chemical Vapor Deposition)やマイクロ波ECR(Electron Cyclotron Resonance)-PCVDをしのぐ成果が期待できる。地味ではあるが、太陽電池を指向する材料、プロセスに関する重要な研究テーマとして推薦したい。


塑性変形を考慮に入れた異材界面の破壊クライテリオンの構築
―試験方法および評価パラメータの提案―
早稲田大学 理工学術院 助手 小柳潤
機械的性質の大きく異なる材料を接合して作られた複合材が構造部材として使われる機会が増えている。その破壊挙動を正しく測定し或いは予測することが重要であるが、接合界面における残留応力、界面端に発生する応力特異点の問題を含めて、界面き裂の発生とその進展経路を明らかにして界面接着強度を精度よく求めることが必要となる。
試験片の形状や材料の組み合わせ、荷重方法によってモード等が変わるから、基本的特性から一般式によって該材料のその状態での強度を予測できることが望ましい。き裂先端近傍の塑性変形も大きな問題となるが、これらも含めて問題は複雑で特に理論も確立されていない。

申請者は、その前段となるフラグメンテーション試験をおこない、FEMによる解析と併せて、まずモードIIの場合で成果を収めている。
本年度は1本のガラス繊維を樹脂中に埋め込んだ試験片による前記測定を繰り返すとともに、DCDC試験によってモードIにおける界面き裂の発生と進展の測定に努力し、綜合して混合モードでの詳細な、かつ広く設計に活用できる計算式を提案することを目標としている。成功すればこの分野の科学の発展に大きく功献するが、実験、解析ともにかなりのロードとなろう。

教授の指導を得て、努力を重ねれば先進的な立派な成果が期待できると思う。


電気化学エピタキシャル重合を用いる単一分子・無機複合デバイスの構築
静岡大学 電子工学研究所 助教授  坂口浩司
有機材料は将来求められる電子デバイスとして自然との調和性などの面で、求められる条件を満たす可能性を持った材料であるが、現在、有機材料を使った電界トランジスタ(FET)等では無機材料と比べるとまだ2-3桁の性能差が見られる。“導電性高分子”は高い潜在能力を持つものの、単一分子レベルで配向を制御する事が困難であったため、現在得られているデバイス性能は低い。

これら問題を克服するためモノマーを含む電解質溶液中で一本の分子ワイヤ(導電性高分子)を基盤の原子配列にそって逐次成長させる“電気化学エピタキシャル重合”という新規方法を開発した。この方法は従来の方法にはない特徴を持っており、これまでに観測されていなかった新規現象も明らかにする事に成功した。

本研究では申請者らが開発した“電気化学エピタキシャル重合”技術を利用して1分子レベルで制御された分子ワイヤ列を形成させ、絶縁性無機物基板へ転写することにより画期的な高性能有機デバイス(FET)構築技術を開発することを目的とし、従来型FET素子に比べて劇的な性能向上を目指す。



化学溶液プロセスによる新規積層型薄膜キャパシタの創製
名古屋大学 エコトピア科学研究所 ナノマテリアル科学研究部門 助教授  坂本渉
電子回路中に集積される電子部品の小型化に伴い、キャパシタについても、今後は、スラリーあるいはペーストを用いて成形、積層、同時焼結によって集積する従来の方法と異なる優れた集積方法の出現が期待されている。そのような方法として申請者は化学溶液法をとりあげている。

本研究は化学溶液法によってシリコン基板上に大きい誘電率を示す誘電体のBa(Zr,Ti)O3膜と伝導性LaNiO3膜を交互に集積して大容量の新規積層型薄膜キャパシタを低コストで得ることを目的としている。
このため、原料化合物の選択、コーティング条件の選択によって高誘電率のBa(Zr,Ti)O3膜を作製し、次に、Ba(Zr,Ti)O3/LaNiO3積層薄膜を作製し、得られた膜の特性の測定することによって、容量特性の高い膜をつくるための条件を明らかにする。

この研究が進展すれば、薄膜を基板上に直接作製することができるため、従来の回路よりはるかに集積度の高い集積回路を容易につくることが可能になり、波及効果は極めて大きいということができる。


高速液滴移動撥水表面での液滴挙動の解析
- 風圧による上昇液滴挙動の計測とその解析 -
神奈川科学技術アカデミー 中島「ナノウェッティング」プロジェクト 宋政桓
本申請は輸送機関用ガラス(自動車や鉄道用フロントガラス)或いは一部の建材用窓ガラスにおける雨天時の視認性・安全性の向上に関する研究を志向している。
水滴の重力による落下ではなく、走行風圧下での落下(移動を開始する風圧、傾斜角度、移動の際の加速度など)に関する接触角を基本とする計測を行い、その知見の体系化を図ろうとするもので、実験結果を表面科学に立脚した理論的考察のレベルにまで高めようとする意欲的な研究と見受け、ユニークな研究成果が期待できると考える。


多成分系金属酸窒化物光触媒の精密合成とバンドギャップ制御による
可視光分解の高効率化
東京大学 大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻 助手  高田剛
光触媒を用いた水分解はクリーンで無尽蔵なエネルギーの生産方法として勢力的に研究されてきた。しかし水の水素と酸素への分解が実際に進行するのはバンドギャップの大きな金属酸化物であり太陽光中にほとんど含まれない紫外光を用いなければならない。より高効率での水分解を行うには太陽光中に多く含まれる可視光を利用できる光触媒の開発が必要となっている。

 申請者はよりエネルギーの小さな可視光を用いて水を水素と酸素に分解できる金属酸窒化物光触媒を新規に見出した。これによって無機固定をベースとした光触媒の新たな可能性が見出された。これらはガリウムもしくはゲルマニウムをベースとした窒化物に亜鉛を複合化させた材料である。

現在可視光照射下での水分解反応の量子収率は非常に低い値である。この主な原因は得られた化合物が励起電子―正孔の再結合サイトとなる格子欠陥を多く含んでいることである。本提案では格子欠陥を低減した結晶性の高い金属酸窒化物を合成する手法を開発し、光触媒活性を向上させる。


バナジウム酸リチウム系ガラスのナノ結晶複合化による電子・イオン伝導制御
茨城大学 大学院 理工学研究科 助教授  高橋東之
2次電池は代表的なエネルギー貯蔵デバイスであるが、リチウム電池はエネルギー密度が高いことから、すでに広く実用化されている。しかしながら、さらなる電池の化学的安定性や小型化を実現するためには、良好なイオン伝導特性を示す固体電解質材料の開発が望まれる。特に、リチウムイオン伝導性固体電解質は高分子電解膜以外実用化されておらず、基板組み込みなどの用途のためにも安定な無機系電解質材料の探索が不可欠である。

申請者はこれまで、バナジウム酸銀系ガラスならびにリン酸銀系ガラスについて、キャラクタリゼーションとイオン伝導特性、ガラス構造の解明、さらに、結晶化ガラス相での構造と安定性、ガラス転移点近傍における構造緩和についても研究を行った。
本研究では、バナジウム酸リチウムをベースとしたLiX-Li2O-V2O5-P2O5系 (X=F, Cl, Br, I) のガラス合成とそのナノ結晶複合化とその特性の研究を行う。
ガラス化領域限界近傍での結晶析出や結晶化温度まで加熱するといった方法により、良好に分散されたガラス・ナノ結晶複合体や、アルミナ等のナノ結晶の機械的な混合など種々の方法で合成されたナノ結晶複合化ガラスのキャラクタリゼーションを行い、イオン・電子伝導度がナノ結晶複合化による析出結晶の組成や結晶化度、平均粒径によってどのような影響を受けるかを検討する。
このようにして得られたガラス・ナノ結晶複合体が高いイオン伝導性を示すことが期待される。


磁性酸化物/半導体界面の原子制御によるスピン検出機能の創出
東京工業大学 応用セラミックス研究所 講師  谷山智康
スピンエレクトロニクスの発展のために、特定のスピン成分を持つ電子のみを半導体から抽出する高効率なスピン検出法の開発を目指している。そのため直接遷移型の半導体GaAs基板上に、フェルミ準位にスピンアップまたはスピンダウンの一方のスピンを持つ電子の状態密度のみが存在する、ハーフメタル磁性酸化物であるマグネタイトを成膜する。
その結果、フェルミ準位に存在するスピン成分をもつ電子のみを透過させるスピンフィルターとしての機能を持つことが期待できる。そして透過する電流値を検出すると注入された電子のスピンの検出が可能になる。
一方円偏光スピンポンプ法によりGaAsから50%のスピン偏極率を持つスピン偏極電子を励起することができるので、ここで作製するスピン検出デバイスの性能を調べる。

これには十分に平坦な界面を作る必要があるであろう。また界面には鉄シリサイドなどが形成される可能性があり、本研究にとって肝要な急峻な界面を得るためにはいろいろな困難に遭遇するであろう。さらに温度の影響としてフェルミ準位での状態密度のぼけを考慮する必要はないであろうか。

しかしこれはユニークなスピン検出器であり、モット検出器に代わりうるならば応用範囲も大きく広がるであろう。


ナノサイズ凹凸を有するSiO2下地膜を用いた超高密度記録用磁性複合膜の研究
日本大学 理工学部 専任講師  塚本新
大容量ブロードバンド通信網の発展に伴い、大容量ファイルメモリの分野においても高速高密度磁気記録や光磁気記録の研究が行われ、1テラビット(1Tb/in2)が目標値となっている。光磁気記録では非晶質で連続な垂直磁化膜が利用され、記録雑音および安定性は磁気記録に比べ有利である。
しかし極微小記録では磁壁収縮力が顕著となり不安定になり、特に磁壁ピンニングサイトの増加が重要である。このため自己配列極微小空孔SiO2による凹凸基板上への希土類遷移金属(RE-TM)非晶質連続膜すなわち、極微細FePt粒上へTbFeCo層を積層し成膜する。その際、多孔質シリコン下地用薄膜作成・膜厚制御およびその表面エッチングによる凹凸深さ制御法を確立し、自己配列極微小空孔SiO2薄膜の空孔サイズ及び膜厚制御可能範囲、自己組織的に整列した10nm以下の凹凸を有するSiO2薄膜下地作製のArイオンエッチング条件を明らかにする。すなわち、空孔サイズの両親媒性高分子依存性(目標値は5nm〜10数nmの範囲)および、スピン・コート条件および、高分子溶媒の希釈濃度依存性(目標値は空孔1層分〜数100nmの範囲)を明らかにする。

また、ナノスケール凹凸を表出するため表面を均一にArイオンエッチング可能なガス圧、投入電力、エッチングレートの条件を明らかにする。これらにより得られる自己配列極微小空孔SiO2薄膜は、本研究のみならず、新規な光学特性やナノテンプレートとしての応用も期待される。


ガラス細管プレートを用いた放電に強い撮像型マイクロパターンガス検出器の開発
山形大学 理学部 助手  門叶冬樹
遺伝子情報を調べる事は、疾病の診断や予防法の開発、環境問題対策の研究開発を飛躍的に進歩させる手段として期待されている。また「細胞機能研究」ではそれら遺伝子情報を基にあらゆるレベルでの細胞機能の仕組みの解明が研究の焦点となっており、「ポストゲノム研究」も含め、高感度・定量解析能力をもつ新しいイメージングデバイスの開発が強く望まれている。

申請者はこれまでに、キャピラリープレート(CP)ガス検出器と光学系およびイメージインテンシファイドCCD(I.I.CCD)カメラから構成される撮像システムより1発ごとのX線光電子飛跡撮像に成功し、X線光吸収点と光電子射出方向を捕えることできる事を示した。

本申請の目的は「ガラス細管プレートを用いた放電に強い撮像型マイクロパターンガス検出器の開発」を行い従来の撮像機器と比較して、定量解析能力かつ撮像能力をもち、高磁場、低温、電気ノイズの混在する環境下においても動作可能な新しい高感度光検出器を用いたイメージングシステム実用化のための研究を行うことである。


キラルなシリカナノチューブの合成
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 助教授  中野環
すでに合成に成功している一方向巻きのらせん構造である光学活性な有機ポリマーであるポリメタクリル酸エステルの側鎖のビニル基に(EtO)3Si-基を導入して鋳型とする。そしてゾル-ゲル反応に最もよく用いられる(EtO)4Si (TEOS)ではなく、分子間反応を抑制するために (EtO)nSiRm(R=Me-, C6H5-, n+m=4)を希釈条件下で用いてゾル‐ゲル反応を行い、シリカナノチューブを鋳型上に形成する。その後にシリカネットワークの内側にある鋳型のらせんポリマーを熱分解によって除去し、外側のチューブ状(パイプ状)シリカ化合物を得る。
このようにして有機ポリマーが持つキラリティーを保持したシリカナノチューブの合成をしようとしている。よく検討した研究計画であり、本研究に対する意欲が感じられる。

しかしこれまでの研究分野である有機ポリマーの合成とは異なる点も多く、いろいろな困難に遭遇するであろう。
この合成に成功すると、ゼオライトが持つ特徴にこれまでにはない性質を付加するようなことになり、キラル分子認識やキラル触媒などの機能を持つ新しい材料として、将来の大きな発展が期待できる。


アモルファス状リン酸カルシウム(ACP)のクラスター構造評価と
高機能バイオマテリアル開発
大阪府立大学 大学院 工学研究科 マテリアル工学 教授  中平敦
水酸アパタイトは、ケミカルに人工的に合成すると比較的結晶性の良い安定な材料が得られるが、生体内部では、少なからぬ時間をかけて、低結晶性水酸アパタイト(リン酸カルシウムの一種)が合成されており、それが骨や歯の材料として沈着して石灰化して形が形付けられていく。この際、破骨細胞が骨やインプラント材の一部分を溶解し、またそのCa成分とリン成分を用いて骨芽細胞が水酸アパタイトを合成するが、その水酸アパタイト成分は、ケミカルに合成されたものと異なり、かなり結晶性の低いアモルファス状水酸アパタイトであり、その析出初期は、アモルファスリン酸カルシウム(ACP)のクラスターが生成し、その後、低結晶性水酸アパタイトに成長すると言われている。

これまでACPと報告されてきた材料も単に微細結晶からなる水酸アパタイトである場合が多かった.このようにACPのケミカル合成は難しく、生体内と同じような構造を持つACPの合成は、非常に困難であった。
本研究ではACP本来の構造を、X線吸収法(EXAFS)にて決定し、次いでその構造知見を基としてACPを簡便に合成するプロセスを確立する。これまでの申請者の予備実験では、Ca金属を出発源としたアルコキシド法の合成時に体液と同様に、たとえばZnを所定量共存させると、極めて簡便にACPの合成が可能になることを見出したので、さらに骨細胞に影響を与える無機イオンとしてZn以外にもFeやMgなどの無機成分共存下でACPの合成を進め、その得られたACPの構造解析を行って構造を決定し、ACPの合成プロセスの確立を目指す。


高結晶性ラブドフェン型希土類リン酸塩の合成と
ミクロサイズ空洞の微視的特性に関する研究
神戸大学 工学部 応用化学科(大学院自然科学研究科兼任) 助教授  成相裕之
本申請でねらいとする研究は、ある種の希土類リン酸塩の特異な空洞構造を化学反応の場として、あるいは物質の移動のパスとして活用しようとするものである。特に1次元空洞構造を有するラブドフェン型構造にスポットをあて、表面積や触媒能をモニターしつつ物質合成を行い、構造との関連を体系的に付けようとしている。
地味な無機化学研究ではあるが、ユニークな研究であるので、その体系を築く中で興味ある性質や法則性を見出すことに期待したい。


化学修飾したカーボンナノチューブを用いたゾルーゲル法による
無機/有機ナノ複合膜センサーの合成
上越教育大学 生活健康系教育講座 助教授  藤木一浩
無機/有機複合膜にカーボンナノチューブなどの機能を有する粒子を分散させると、たとえば導電性の膜ができるが、無機のマトリックスの膜と違って柔軟性を有するのが特徴である。しかし、有機成分として単純にポリマーを出発溶液に加えるゾルーゲル法で複合膜を作ろうとすると、ゾルーゲル過程で相分離がおこり、生成した材料は機械的強度の低いものとなる。

本研究では、柔軟性があり、しかも相分離のないカーボンナノチューブ分散無機/有機複合膜をつくるために、末端にフェロセン部位を有する結晶性ポリマーをカーボンナノチューブ側面にグラフトし、このポリマーグラフトカーボンナノチューブ存在下でゾルーゲル反応により、カーボンナノチューブがマトリックス中によく分散した複合膜を作製する。この複合膜を、吸着量と電気抵抗の関係を利用して吸着分子を認識する分子認識センサーとする。

上記方法でつくられる材料は強度が高く、柔軟性を有し、任意の形状に成形することができるので、新しい電子デバイスとして、あるいはセンサーとして発展させることができると期待される。


ガラス中金属ナノ粒子におけるピコ空間のキャラクタリゼーション
千葉大学 工学部 助教授  藤浪眞紀
MgO、SiO2、TiO2などの酸化物絶縁体にCuやAuイオンを注入し、その後熱処理をすることにより10nmφ程度の金属ナノ粒子が析出し、表面プラズモンに起因する大きな非線形光学効果と高速応答性により新規フォトニクス素子・超高速光スイッチ素子への応用が期待されている。しかし、そのプロセスにおいて、表面100nm以内の局所領域に生じた様々な欠陥、ナノ構造体の析出過程には不明な点が多いが、電子顕微鏡による観測のみでは解明できない。

本研究は陽電子消滅法によりナノ粒子析出初期過程を観測するものである。陽電子は電荷が正であるため空孔が安定なサイトとなり、一旦固体に注入されると自発的に空孔に捕獲される。陽電子は最終的には電子と対消滅してγ線を放出するが、空孔では電子が希薄なために陽電子寿命から空孔サイズ、その強度から濃度が決定できる。また対消滅γ線のエネルギー分布は電子の運動量を反映するため、空孔と結合した不純物を同定することができる。その結果、イオン注入された基板中に誘起された空孔および注入元素と陽電子の相互作用が解明され、新しい材料設計の指針が得られるものと期待される。


無磨耗ラップを用いたガラス材料のラッピングに関する研究
弓削商船高等専門学校 電子機械工学科 助教授  藤本隆士
各種の精密部品材料(ガラス、磁気デスク等)の表面を真に平滑に仕上げる事は、ナノテク時代の製造業の基本技術として重要であるが、関連する研究発表は尠く“隙間技術”と言える領域と思える。

本申請者は、電子機械工学科に所属し仲間とともに脆性材料のポリシングの前工程としてラッピングに関して多くの実験を行っている。そしてガラスのラップ盤を用いて軟鋼、Ti、Ag、Ni、Al等を試料として研磨効率を研究した際に、Agのみが殆ど研磨されないという異常な現象に遭遇し、さらにガラスの種類を変え、砥粒もダイヤモンド、WA、GCに変えて実験し、やはり、類似の条件ではAgは磨耗しないことを確認し報告している。

そこで今年は、この発見を基礎に置いて、銀或いは銀を主成分とするラップ盤を用意し、ラップ液、研磨圧力等を振って、この現象の成立要因を解明するという。

この分野の理論の発展を含めて、その技術、延いてはナノテク関連産業の発展のために、この成果が大きく功献するものと期待される。


石英ガラスのダイナミックス
―X線および中性子線非弾性散乱法による研究
広島工業大学 工学部 助教授  細川伸也
ガラスの原子振動スペクトルには5〜10 meV の励起状態に相当する、所謂ボゾンピ−クが普遍的に認められる。このボゾンピ−クはガラスが示す低温での特異な熱力学的性質と深い関わりを持つと考えられており、その起源について多くの議論がなされてきているが、未だ決定的な結論を得るには至っていない。本研究者は大型放射光施設を利用して基本的なガラスとして重要な石英ガラスのX線非弾性散乱実験を行い、大きなボゾンピ−クの観測されることを見出した。従来、石英ガラスでは中性子線非弾性散乱からはボゾンピ−クの存在が認められるが、X線非弾性散乱からはその存在が認められていなかったことから、ボゾンピ−クの起源は酸素原子が二井戸型ポテンシャル内に拘束されて振動していることにあると考えられていた。本研究者の得た結果はボゾンピ−クがこの様な単純なモデルでは説明できないことを示している。

本研究は石英ガラスについて、室温、ガラス転移温度直下の1000℃、転移温度を超えた1400℃の広い温度領域でX線および中性子線非弾性散乱実験を最新の装置を用いて行い、そのボゾンピ−クの起源を明らかにすることを目指すものである。基本的なガラスである石英ガラスのボゾンピ−クと各原子の熱振動との関係、更にはそれ等の温度依存性が明らかにされることにより、広くガラス状物質の熱伝導度や比熱などの熱力学的性質に対する理解を深めることに大きく貢献するものと考えられる。


価電子制御を目的とした新しいデバイス用酸化物半導体薄膜の実験的模索
早稲田大学 理工学部 電気情報生命工学科 教授  堀越佳治
酸化物半導体であるGa2O3のデバイス応用を目指す開拓的材料研究。特に荷電子帯の制御に重点を置く。Ga2O3は、バンドギャップ5eV(エレクトロンボルト)をもつ透明半導体で、まだ実用にはなっていないが、新たな可能性をもっている材料である。

最近、化合物半導体の発光材料としてこれまでのIII-V族はもとより、ZnOなどの酸化物、ZnSeなどのII-VI族半導体が注目されている。本研究はその中で、Ga2O3を取り上げ、発光素子を目指した在留研究を展開する。まず、基板として石英ガラス、サファイア、MgOなどを試し、薄膜成長条件の最適化を行なう。ついで、光学特性、多層膜の堆積を計画し、伝導制御、pn接合形成、発光素子への発展を目指す。

NTT基礎研から大学に移った研究者で、NTT時代からの豊富なGaAs系半導体のデバイス研究経験をもとに、良い成果が期待できる。


ランタノイドオキシ硫酸塩の大容量酸素ストレ−ジ機能に関する研究
熊本大学 工学部 物質生命化学科 教授  町田正人
申請者らは新物質としてのランタノイド系のオキシ硫酸塩/サルファイドにおいて非常に大きな酸素吸蔵能を昨年発見し、本申請においてその発見を周辺展開し、構造との関連を究明し、高機能化につなげようとしている。
主として廃ガス触媒としての用途が考えられているが、固体化学としての体系的なアプローチにも期待したい。


生体分子群をガラス基板上にマイクロ?ナノ配置したバイオチップの創成
東京工業大学 大学院 生命理工学研究科 助教授  三原久和
蛋白質検出チップやセルチップなどの次世代バイオチップ技術の進展のためには、測定に適したチップ上の生体分子群の優れたデザインを達成し、高性能ガラス基板技術と融合開発することが要望されている。このためには、ペプチッドその他多量に利用できるチップの捕捉材を開発することが必要である。

本研究では、蛋白質の検出や機能の解析を高能率でおこなうことのできるバイオチップを創製することを目的とし、ペプチッドライブラリ、糖鎖ミミック、人工機能蛋白質などの新規生体分子群を合成して、ガラス基板とハイブリッド化して、次世代型のバイオチップを開発する。

次世代型バイオチップの開発が進み、蛋白質のキャラクタリゼーションに応用することにより、蛋白質どうしの強い相互作用、細胞内外での弱い相互作用、未知の蛋白質ネットワーク、生体内での蛋白質の機能や役割が明らかになると期待される。このような情報は将来の優れた薬剤の設計や環境ならびに食品のモニタリング技術の発展につながるもので、大きいインパクトとなると思われる。


陽極酸化ポ−ラスアルミナにもとづくフォトニック結晶の作製と
光機能デバイスへの応用
神奈川科学技術アカデミ− 光科学重点研究室「益田グループ」 研究員  柳下崇
フォトニック結晶の作製にはナノメ−トルスケ−ルで物質の構造を制御する技術が要求され、種々の作製法が従来検討されてきたが、それ等の中で陽極酸化ポ−ラスアルミナを利用する方法が有力な候補として注目されている。
本研究者等は規則的に配列した突起を有するモ−ルドにより、アルミニウム板表面に細孔を配列させた後に陽極酸化させて、細孔が配列したポ−ラスアルミナを作製することに成功している。そして細孔の配列周期を調整することにより、2次元フォトニック結晶としての機能を示させ得ることを確認している。

本研究はこれ等の成果を踏まえて、高規則性ポ−ラスアルミナを利用した光機能デバイスの開発を行おうとするものである。まず、フォトニック・バンドギャップのバンド端では光と物質の相互作用が増大することに着目し、高規則性ポ−ラスアルミナに蛍光色素を導入して光励起を行うことにより、高効率低閾値の色素レ−ザ−の開発が進められる。
また、点欠陥を有するフォトニック結晶は微小な光共振器として作用させ得るという事実基づいた低閾値レ−ザ−の開発も試みられる。更に、線欠陥を導入したフォトニック結晶では、欠陥領域に沿って光を導波させることが可能なので、高規則性陽極酸化ポ−ラスアルミナに線欠陥を導入した光導波路の作製が計画されている。
これ等の研究はポ−ラスアルミナを基盤とした微小な光集積回路構築への応用展開に繋がるものとして期待されるところ大である。


光誘起超親水性TiO2表面における水分子構造と機能性発現の関係解明
北海道大学 触媒化学研究センター 助教授  叶深
酸化チタン(TiO2)を紫外光で照射すると、TiO2表面に超親水と超親油性が同時に存在する両親媒性が現れることが明らかにされ、現在では特に超親水化現象を利用した様々な応用が展開されている。しかし、その広い応用性とは対照的に、その界面分子構造はまだ解明されておらず、光誘起によるTiO2薄膜の表面特性の変化を理解し制御することは、基礎と応用の両面において重要なことである。

申請者はLB法及びベシクルフュージョン法によりリン脂質分子や脂肪酸分子の二分子膜、生体適合性高分子の超薄膜を固体基板上に構築し、生体有害分子や加水分解酵素の存在下で、それぞれの界面における分子構造についてフェムト秒のSFG分光測定システムを用い、分子レベルで詳細に調べている。
本研究では、種々の両親媒性及び超撥水のTiO2薄膜の表面組成を明らかにしたうえ、表面有機物などの汚れの酸化分解に伴う薄膜表面における水分子の界面分子構造の変化を表面振動分光法の和周波発生(SFG)により追跡し、TiO2薄膜の光誘起機能の発現機構を分子レベルで解明することを目指す。
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